こいつら…。確か…。

「シルナ…この二人…」

「…そうだね。決闘の時の…」

シルナも覚えてたか。

そう。そこにいたのは、アーリヤット皇国との決闘の時に戦った相手…。

一回戦でベリクリーデと戦ったバーサーカー。

名前は確か…バニシン・エル・エドマン。

それからもう一人は…二回戦でマシュリと戦ったマッドサイエンティスト。

こちらは…イルネ・メルトリアスだったか。

何で、この二人がここに…。

いや、それ自体は別に訝しむことじゃない。この二人は元々『HOME』の構成員なのだから。

でも、俺が言いたいのはそういうことじゃない。

バニシンとイルネは、以前決闘の時、ミナミノ共和国で会った時とは、まるで変わってしまっていた。

「こ、ころす…。あのおんな…。どこ、どこだ…。ころす、ころす…」

「じっけんだい…。みんな…。わたしのじっけん…。じっけんだい、じっけんだい、じっけんだいじっけんだい…」

「…!」

二人共、目は虚ろで、目の前にいる俺達を見てはいなかった。

呂律の回らない舌で、ひたすら物騒なことを呟き続けていた。

バニシンなんて、決闘の時は、戦ってるベリクリーデが子供に見えるほど、ガタイの良い大男だったのに。

今はげっそりと痩せて、あの頃の面影なんて全くない。

イルネだって、以前見た時は、あんなに腹が立つほど自信満々のな態度だったのに。

今となっては、まるで路頭に迷った少女のようだ。

有り得ない。何でこんな姿に…。

「お前ら…!この二人に何をしたんだ…!?」

ハクロとコクロに詰め寄ると、二人の大天使は淡々とした声で答えた。

「裏切り者の聖賢者一味に負けた出来損ないは、『HOME』に相応しくないとのナツキ様の仰せです」

「出来損ないでも、貴重な戦力に変わりありませんから。せめて少しでも役に立てるよう、『ムシ』を使って操らせていただきました」

なんっ…てことを、そんな平然と…!

「何がナツキ様の仰せ、だ…!そのナツキ様だって、お前らが操ってるんだろ!」

「いいえ、これはナツキ様ご自身の意志です。私達は、彼の中に元々燻っていた復讐心、闘争心に、ほんの少し火をつけただけ」

「その小さな火を燃え上がらせ、大きな火事に広げたのは彼自身の意志です。全ては、あなた方がそうさせたのですよ」

うるせぇ。燻っていた小火のままであれば、これほど延焼することはなかったはず。

放火犯の分際で、よくもそんな偉そうな態度が取れるもんだ。

「お前ら…!目を覚ませ!お前らはハクロとコクロに操られてるんだ!」

何とかバニシンとイルネを正気に戻そうと、必死に二人に呼びかけた。

しかし。

「ころす…。あ、あのおんなは、どこだ…。みなごろしだ。みんなころし…」

「じっけんだい、じっけんだいだ。じっけんだい、じっけん、」

二人共正気を失って、ひたすら同じことを繰り返すばかりだった。

畜生、全然声が届かない…!

…でも、あいつらは今、二人の中に『ムシ』がいると言ったな?

それなら、まだやりようはあるはず…!