日が暮れるタイミングを狙って、俺達はマシュリの案内で皇宮を目指した。

マシュリの言う通り、不気味なほど誰とも会わず、誰かに見咎められるようなこともなかった。

…なんか、怖いな。

「…ここから、いよいよ皇宮が近くなる。皆覚悟は良い?」

皆を案内していたマシュリが、最終確認の為に振り向いた。

…怖いけど、でもここで足踏みしてる場合じゃない。

「ここまで来て、ビビって逃げ出すような奴は、この中にはいないよ」

「…そう。分かった、じゃあもう聞かないよ」

あぁ、そうしてくれ。

すると、マシュリは徐ろに立ち止まり、裏路地のマンホールに手を掛けた。

…え。何やってんの?

重いはずのマンホールの蓋を、軽々しくひょいっと持ち上げた。

「マシュリ…?」

「皆、ここを降りて」

ここって…このマンホールを?

「どういうことだ…?」

「さすがに、正面からは入れないでしょ?ここを降りて、秘密通路から皇宮内部に入る」

成程。そんな手が。

「皇宮の地下には、いざという時の為に、皇都のあらゆる場所に繋がる秘密通路が作られてるんだ」

マンホールを降りながら、マシュリがそう教えてくれた。

元皇王直属軍『HOME』の一員であったマシュリは、こっそり皇宮に侵入することの出来る秘密通路を知っているらしい。

「覚えがあるな…。ルーデュニア聖王国でも、フユリ様のいる王宮には秘密通路がいくつもあるって聞いたよ」

そりゃそうだよな。ルーデュニア聖王国にあるものは、大抵アーリヤット皇国にもある。

「ただ…僕が知っている時のまま、今もその通路が使われているかは分からないけど…」

「大丈夫だ。その時はその時だよ」

いざとなったら、真正面から正面突破ってことで。

全員が順番に、マンホールを降りて暗い下水道に入った。

「ふぇぇ…。暗くて怖い…。足元が覚束ないよ…」

ビビリで老眼のシルナは、震えながら俺の肩にしがみついてきた。

「ランタンつけてあげるよ」

風呂敷包みの中から、令月が愛用のランタンを取り出して、明かりを灯してくれた。

ありがとう。是非、シルナの足元を照らしてやってくれ。

ぷるぷる震えているシルナにしがみつかれたまま、薄暗くて、複雑に曲がりくねった地下水道を歩くこと、およそ15分。

「…ここだよ」

マシュリが、行き止まりの壁の前で立ち止まった。

ここ…って言われても…。

「…行き止まりじゃないのか?」

目の前、壁なんだけど…。

しかし、俺より遥かに目の良い令月とすぐりは。

「ここ、壁の色が違うね」

「この向こうに通路があるの?」

「うん、そう」

頷いたマシュリが、壁をぐっと押すと。

薄い外壁が剥がれ、その奥から背の低い鉄格子の扉が現れた。

…マジかよ。こんな仕掛けが。

普通分からんぞ。初見で見破った令月とすぐり、さすが過ぎる。