マシュリの案内でやって来たのは、皇都の裏路地。

マシュリ曰く、猫の溜まり場だった場所であるらしい。

そこで、俺達は一時態勢を立て直すことにした。

まずは、脳にダメージを負ったナジュに回復魔法をかけ。

令月も、山賊退治で使用した小太刀を、携帯用砥石で研ぎ直し。

すぐりは、持ってきた風呂敷包みの中身を点検していた。

シルナもシルナで、「決戦前の糖分補給!」とか言って、チョコレート齧ってたし。

お前は決戦前だろうといつだろうと、関係なくチョコ食ってんじゃん。

マシュリはキャリーケースを出て、人の姿に『変化』し直していた。

キャリーケースの中は、さぞ窮屈だったことだろう。

イレース、リューイの二人は、特に準備をすることなくいつも通りだった。

「…どうだ?ナジュ、具合は」

「もう大丈夫ですよ」

本当かよ。

とてもそんな風には見えないし、こいつは自分の心の中は絶対読まれないのを良いことに、平気で嘘ついて無茶するからな。

「失礼ですね…。そんなことしませんよ…」

うるせぇ。頭痛むんだろ、読むな。

「ナジュは後衛だな。天音、こいつが無茶しないように見張っててくれ」

「うん、分かった」

「えー。前線で使ってくださいよー」

良いから大人しくしてろ。

「準備が出来たのなら、早く皇宮に行きますよ。ぐずぐずしている時間が惜しい」

と、イレース。

そうだな。…こうしている間にも、また監視に目をつけられるかもしれないし。

「マシュリ、どうだ?周囲に人の気配は?」

「…ないね。不気味なくらい何も…」

そうか…。

上手く撒いたということで良いのか?

それはそれで不安が残るような…。

…でも、行くしかないんだよな。

「…」

「…?リューイ、どうした?」

そろそろ出発という時になっても、リューイはいつもの、虚空から出した本を眺めていた。

…何やってんだ?何が書いてあるんだ、その本。

「…いえ、何でもありません」

リューイは、ぱたんと本を閉じた。

…あ、そう。

「ご主人様のことが心配だとは思うが、今は…」

「えぇ、分かっています。…行きましょう」

「…あぁ」

…そういや、俺、リューイが戦ってるところって見たことないんだけど。

果たして、天使って戦うのだろうか…?

疑問は残るが、イレースの言う通り、今はぐずぐずしている暇はなかった。