ナジュがこんなに体調を崩すと言ったら、それしか理由はない。

「お前…!性懲りもなく、また…!」

「平気ですよ…今回は…」

そんな青い顔して、何が平気なんだよ。ふざけんな。

「イレースさんと天音さんにすぐ止められたので、それほど長時間は使ってません。…放っておけば、すぐに治ります」

何が「すぐ治ります」だ。

この馬鹿。イレースと天音が止めてくれなかったら、きっと、また倒れるまで読心魔法を乱用していたことだろう。

一体、何でそんな状況に陥ってしまったんだ…?

「どうやら、列車旅の道中で正体を疑われていたようです」

俺の内心を察したように、イレースが答えた。

…何?

「疑われてた…?」

「はい。ボロは出していなかったはずですが…。警戒されていたのは確かです」

…そういうことか。

それで、監視の目から逃げる為に、ナジュが読心魔法を使って…。

読心魔法を利用して、危険を回避するはずが…完全に裏目に出てしまったらしい。

「マシュリさんの案内で、裏道を通って監視の目は撒いたはずなんだけど…」

「そっか…。じゃあ、列車ルートも安全じゃなかったんだね…」

…むしろ、山賊に襲われた山越えルートよりも危険だったのかもな。

こっちは、襲ってくる相手がはっきりしてたもんな。

一方列車ルート組は、誰に監視されているか分からなかった。

そのせいで、ナジュが読心魔法を乱用する羽目に…。

「こうしている今も、何処からか監視されているかもしれない。全員合流したからには、これ以上ここにいる理由はない。すぐにこの場を離れた方が良いと思う」

と、マシュリが警告した。

…それが良いかもしれないな。

「待って。ナジュ君、こんなに具合悪そうなのに移動するのは…」

「大丈夫ですよ。自分で歩けます」

ナジュを庇おうとした天音を、ナジュ自身が制した。

相変わらず気分は悪そうだが、足元はしっかりしているようだ。

「…無理をするなよ。ナジュ」

「分かってます」

本当に分かってるんだろうな、と問い詰めたいところだったが。

…今は、そんなことをしている時間も惜しいな。

「マシュリ、案内してもらえるか?」

「うん、分かった」

再会の喜びを噛み締める時間の余裕もなく。

俺達一行は、マシュリの案内で、場所を移動することにした。