「良かったよ、皆…。無事に皇都まで来ることが出来たんだね」

シルナもホッとしたようだった。

こいつらなら大丈夫だと信じてはいたけど、でも、ここは敵国。

何があるか分からない。ずっと心配だったんだ。

「そっちはどうだった?山賊に襲われたんじゃないかって…」

と、マシュリが聞こうとすると。

「へーきへーき。ぜーんぶ蹴散らしてやったよ。ねぇ、『八千代』」

「うん。身ぐるみを剥がされる前に、こっちが山賊の身ぐるみを剥いでやったよ」

頼もし過ぎる令月とすぐりが、それぞれ自慢げにそう答えた。

「…質問を変えるよ。山賊が襲われたんじゃないかって心配だったんだ」

「そ、そうか…」

そうだな。山賊に襲われた、って言うか…。

逆に…こっちが山賊を襲ったみたいになってる。

「そっちも無事だったか?列車ルートは順調な旅だったのか?」

「あ、えぇと…」

言い淀む天音。

おい、どうした。

俺としては「うん、大丈夫だったよ」と答えてくれることを期待していたんだが?

すると、天音の代わりにイレースが答えた。

「問題ありません。天音さんがヘビを食べさせられ、ついでに彼氏にフラれたことになっただけで」

「…!?」

「それ以外は、そこそこ快適な旅でした」

…ごめん。ちょっと意味分かんないんだけど。

…それ、本当に快適な旅立った?

快適(当社比)。

「…天音、一体何があったんだ?どういうことなんだよ」

「…うん…。大丈夫…」

おい。こっちに視線合ってないぞ。

何があったのか分からないが…とりあえず、全員揃って合流出来たんだから良し、ってことで良いか?

…そういえば、さっきから気になることが。

「…随分大人しいじゃないか、ナジュ」

いつもは饒舌に喋るはずのナジュが、公園のベンチに腰を下ろしたまま、さっきから一言も言葉を発していない。

お前が静かだと、逆に不気味なんだが?

「…不気味とは…失礼な言い草ですね…」

ようやく顔を上げたナジュの、力のない声と、元気のない顔色を見て。

俺も、シルナもぎょっとした。

これはただ事ではない。

「な、ナジュ君…!?一体どうしたの?」

「ナジュ、大丈夫か?具合が悪いのか」

慌ててナジュに駆け寄ると、彼は構わなくて良いとばかりに、ひらひらと手を振った。

「大丈夫です…。大袈裟に騒ぐことじゃありません」

「いや、騒ぐだろ。そんな具合悪そうな顔して…」

不死身のナジュが体調を崩してるなんて、まず滅多に有り得ることじゃない。

考えられるとしたら…。

もしかして、お前、また…。

「ナジュ君、僕達の為に読心魔法を多用して…。それで、体調を崩してしまったんだ」

頑なに気丈なフリを装おうとするナジュに代わって、天音がそう答えた。

…やっぱり。