それから、更に30分後。 

再び、車両の扉が開いて、車掌が姿を現した。

ちらりと視界の端に車掌を捉え、その表情を盗み見たところ。

先程より、更に険しい表情になっていた。

あー…。うん、これは不味いかもしれませんね。

敢えてそちらを見ないように、視線を背けていたのだが。

車掌さんはジロジロと、探るような目で乗客を見て回っていた。

そして、ついに。

僕達の座るボックス席の前にやって来て、ピタリと足を止めた。

天音さんが息を呑む声が聞こえてきた、と同時に。

「…失礼ですが、お客さん、どちらから?」

訝しむような視線をこちらに向けて、そう尋ねてきた。

おっと…。そう来ましたか。

僕は、さも驚いたような表情で振り向き。

「○○の駅からですよ」

と、昨夜一晩を過ごした中継都市の名前を答えた。

「どちらまで?」

更に尋ねてくる。

その尋問口調から、単なる雑談でないことはすぐに分かった。

大体、何処から来て何処まで行くのかなど、そんな下世話なことを聞いてくる車掌は、まず滅多に存在しない。

「一泊二日の旅行に行って、皇都に帰るところなんです」

聞かれて困ることなど何もないとばかりに、僕は微笑みを浮かべて、何気ない口調で答えた。

「…他のお二人は?お連れ様ですか?」

僕の横に座っている、天音さんとイレースさんに、疑わしそうな視線を向ける。

「大学の友人です」

と、イレースさんが答えた。

こちらも、全く顔色を変えていない。さすがである。

「ご友人ですか…。…そちらは?ペットですか」

今度は、シートの上に置いたキャリーケースを見下ろす。

マシュリさんは身動ぎせず、じっと大人しくしていた。

ペットとは。大事な仲間なんですけどね。

でも、今だけは正直に答える訳にはいかなかった。

「僕の飼い猫なんです。一人暮らしなので、旅行に行ったら留守番させてしまうことになると思って、連れてきました」

僕はにこりと微笑んで、作り話をした。

「済みません、ご迷惑なのは承知の上ですが…。大人しい子なので、お騒がせすることはないと思います」

「…」

大人しいという僕の言葉を証明するように、マシュリさんはじっとして、一言も鳴かずに車掌さんを見つめた。

「…先程旅行と仰られていましたが、どちらに?」

いい加減解放して欲しかったのだが、まだぐいぐい聞いてくる。

しつこいですね。…余程疑り深いと思われる。

しかし、それで狼狽えてしまったらこちらの負けだ。