昨日は、何事もなく順調な旅だった。

そのせいだろう。中継都市を出発するまで、僕達は若干気が緩んでいた。

今日も昨日のように、順調な旅であって欲しいと願っていた。

…の、だが。






皇都行きの列車が出発して、僅か15分足らずのことだった。

昨日と同じように、ボックス席に座っていると。

早速、車掌さんが車両の扉を開けてやって来た。

…おっと。

「…また切符の点検かな…?」

こそっと、天音さんが僕に聞いてきた。

さすがに、今日の天音さんは寝たフリはしていない。

始発の列車から寝るのもどうかと思いますしね。

…しかし。

今日の車掌さんは、切符の点検はしなかった。

きょろきょろと車両の中を見渡し、無遠慮に乗客を見つめていた。

…非常に怪しい雰囲気ですね。

「ど、どうしたんだろう…?」

「しっ。静かにしなさい」

イレースさんに叱咤され、天音さんは慌てて口を閉じた。

そうですね。今は極力、目立たない方が良さそうです。

キャリーケースの中のマシュリさんも、何やら感じたらしく。

大人しくじっとして、借りてきた猫のごとく静かにしていた。

やがて、のろのろと車両の中を歩いていた車掌さんが、僕達の席の前に来た。

隣の天音さんの心臓が、バクバク言う音が聞こえてきたが。

イレースさんも僕も、しれっとして、「全然何も疚しいことはありません」みたいなフリを装った。

天音さんも、頑張って出来るだけ窓の外に視線を向けていた。

頑張ってください天音さん。

「…」

車掌さんは、しばし僕らをじっと眺め。

それから、何も言わずにまた別の席の客のもとに歩いていった。

…ホッ。

どうやら、一応は難を逃れたようですね。

「だ…大丈夫かな…?」

車掌さんが車両を出て行ってから、天音さんが青い顔をして聞いてきた。

…さぁ。どうとも言えませんね。

「どうやら、昨日のように快適な旅とは行かないようですね」

と、イレースさん。

「…そうみたいですね」

場合によっては、皇都に辿り着く前に手前の駅で降りた方が良いかもしれない。