そのまま何事もなく、一行は無事に、皇都に向かう中継都市に辿り着いた。

その頃には、すっかり日が暮れていた。

ようやく中継都市に辿り着いた僕達だったが、懸念点が一つ。

「あ…やっぱり、駄目みたい…」

「そうですか…。…まぁ、無理もないですね」

駅構内の掲示板に貼り付けられた、皇都に向かう列車の時刻表を確認したところ。

今日の皇都行きの最終列車は、既に一時間以上前に発車してしまっていた。

「次の列車は…明日の始発だね」

「ということは…今日は、ここに泊まるしかないですね」

またしても足止め。

折角中継都市までやって来て、山越えルートに追いつくことが出来たかと思ったのに…。

ここに来て、今度は朝まで動けないとは…。

なかなか前に進めないのがもどかしいですね。

でも、まさか徒歩で皇都に向かう訳にもいかず…。

「ないものはないのです。どうしようもありません。朝まで待つしかありません」

未練がましい僕と天音さんに反して、イレースさんはきっぱりとそう言った。

切り替え早いですね。さすが。

「朝まで…。何処で待とうか?まさか、ホテルに泊まる訳にはいかないよね…」

「論外です」

即座にイレースさんがそう答えた。

まぁ、そうなりますよね。

僕達は、アーリヤット皇国に不正入国した身。

目立つのを避けなければならない身なのだ。

旅行者である僕らがホテルにチェックインしたら、名前や住所の記入を求められる。

もしかしたら、身分証明書の提出を求められるかもしれない。

そうなったら困る。…非常に困る。 

出来るだけ、足はつかないようにしておきたい。

と、いうことになると…。

「ここで待てばよろしい」

イレースさんはすぐさまそう言って、駅構内のベンチに腰を下ろした。

…このまま、駅で朝を待つしかないですね。

さながらホームレスのようですが。

「そっか…。まぁ、そうするしかないよね…」

天音さんも覚悟を決めて、イレースさんの隣に座った。

下手に姿を晒す訳にはいきませんからね。

今夜はこのまま、駅のベンチに泊まるとしましょうか。

僕も、天音さんの隣に着席し。

更にその隣に、マシュリさんのキャリーケースを置いた。

多分今頃、山越えルート組も野宿してる頃でしょうから。

山賊に襲われる恐怖に怯えながら眠っている彼らに比べたら、駅のベンチで眠るなんて、さながら天国のようですよ。

それに、どうやら駅に泊まるのは僕らだけではないようで。

他にも、最終列車を逃した乗客達が、駅の床に新聞紙やタオルを敷いて、その上に座ったり寝転んだりしていた。

駅員達も、それを見ても何も言わなかったので。

アーリヤット皇国では、珍しい光景ではないのだろうと思われた。

それじゃ、また明日。おやすみなさい。