さて、腹ごなし兼、暇潰しも済んだので。

そろそろ、切符を買って、列車に乗る準備をしましょうか。

現状、普通にアーリヤット旅行を楽しんでる感じになっちゃってますね。

こうしている間にも、学院長や羽久さん達は、山賊の恐怖に怯えているのだろうか。

…何だか申し訳なくなってきましたね。

このまま、快適に皇都まで向かいたいものである。

長い待ち時間の果てに、ようやく午後の列車が駅構内にやって来た。

その列車に乗り込んで、空いているボックス席に着席。

そのまましばらく待っていると、アナウンスが流れ、ゆっくりと列車が動き出した。
 
お、ようやく進み始めましたね。

「やっと動いた…。一安心だね」

「そうですね」

待機時間が長かっただけに、ようやく動き出すと安心しますね。

これで、前に進むことが出来る。

動き始めたら速いですよ。列車は。

あとは、列車が自動的に僕達を運んでくれる。
 
…しかし、ホッとしてばかりはいられない。

「油断は禁物ですよ。これで私達は、この列車に閉じ込められたも同然なのですから」

「うっ…」

気が緩んでいた天音さんは、思わず身を竦ませた。

恐ろしいこと言いますねー、イレースさんは。

まぁ、その通りなんですけど。

山越えルートと違って、列車の中に閉じ込められた僕らは。

この列車が何処かの駅に停まるまで、列車の中に拘束されたも同然なのだ。

いやはや。恐ろしい旅じゃありませんか。

「挙動不審は駄目ですよ、天音さん。堂々としてないと怪しまれます」

「わ、分かってる…。気をつけるよ…」

とか言いながら、きょろきょろと視線が泳いでいる。

どうやら、余程緊張しているようですね。

「大丈夫ですよ、天音さん。そんなに緊張しなくても」

「そ、それは分かってるけど…」

「どうしても演技出来ないなら、寝ているフリでもしていなさい」

イレースさん、ナイスアドバイス。

「あ、そ、そっか…。それじゃ…」

天音さんは窓際にもたれて、いかにも「旅行疲れで寝てます」といった風に、目を閉じた。

うーん。大根役者。

まぁでも、及第点ということで。

僕は窓の外を眺めて、景色を楽しんでいる風に装い。

イレースさんは、小道具として先程駅の近くで買ってきた、アーリヤット皇国の新聞を開いて読んでいた。

この人の堂々とした態度と言ったら。

何処からどう見ても、普通のアーリヤット人女性にしか見えませんね。