「クモ…。クモ…!?」

イレースさんの代わりに、天音さんが愕然としていた。

またしても、期待通りの反応をありがとうございます。

天音さんは顔色がくるくる変わって面白いですよ。

「それも、毒グモだそうです」

「えぇっ…!?」

天音さんは目を真ん丸にして固まっているけど、イレースさんは相変わらず、全く顔色を変えず。

そのまま、ベーグルサンドを咀嚼していた。

「毒抜きはしてあるので、大丈夫ですよ」

「そうですか」

「へ…平気なの?イレースさん。それ、クモなんでしょ…?」

「そうみたいですね」

言いながら、イレースさんは紙ナプキンを手に、ベーグルサンドの具材の隙間から、フライドスパイダーを一匹、試しに引っ張り出した。

はっきり「それ」と分かる親指サイズくらいのクモが、カリッカリに揚げられた姿で出てきた。

うわぁ。

「ひぇっ…」

それを見て、天音さんは小さく悲鳴を上げていたけれど。

「毒グモだろうと何だろうと、毒を抜かれて油で揚げられているなら、普通の食べ物です」

と言って、イレースさんはそのクモを、ひょいぱく、と口に放り込んだ。

豪快。

そのまま、ボリボリと美味しそうな音を立てて噛んでいた。

剛毅。

「昆虫食も、アーリヤット皇国では一般的だよ」

キャリーケースの中から、またしてもマシュリさんが教えてくれた。

アーリヤット人はあれですか。コオロギとかバッタとか、平気で食べられる感じ?

アーリヤット皇国のスーパーマーケットは恐ろしいですね。

豚肉や鶏肉に並んで、当たり前のようにヘビ肉や昆虫が並んでるんでしょう?

「そ、そういえば、ナジュ君は?」

あっという間に、毒グモサンドを平らげてしまったイレースさんに対し。

さっきまで美味しく食べていたのに、ヘビだと知った瞬間に、一気に食欲がなくなったらしい天音さんは。

ヘビ肉サンドを片手に持ったまま、僕にそう尋ねてきた。

…ほう?

「ナジュ君のそれは、何サンドなの?美味しい?」

「美味しいですよ。これ、クリームチーズサンドです」

「…。僕もそっちが良かったな…」

天音さん、遠い目。

済みません。そう言うと思ったんですが。

「ふふ。まさか天音さん、食べ物を無駄にするつもりじゃありませんよね?」

「うっ…。た、食べる。食べるよ…。これはチキン、フライドチキン…」

「ヘビですよ」

「それを言わないで!」

必死に、「これはチキン」だと自分に言い聞かせて食べることにしたらしい。

でも、それはヘビですよ。

それから、何やら誤解をしているようですが。僕の食べているクリームチーズサンド。

クリームチーズの中に、ペースト状に潰したセミの幼虫が、隠し味に混ぜてあるそうです。

果たして天音さんは、これを知ってもなお、「クリームチーズサンドの方が良かった」と言うでしょうかね?

「…セミの幼虫も、アーリヤット皇国では一般的な食べ物だよ」

多分、匂いで察知したのだろう。

マシュリさんが、こっそりとそう教えてくれた。

普通に美味しかったですよ。ありがとうございます。