マシュリさん曰く。

この国境付近の街から、直接皇都に向かう列車はないそうだ。

列車を乗り継いで、まずは皇都に向かう大きな中継都市を目指し。

そこから改めて、皇都行きの列車に乗り換える必要がある。

成程、二度手間ですね。

おまけに、この辺境の都市だと、列車の数もそんなに多くない。

一日に二本。午前と午後にそれぞれ一本ずつという有り様。

うーん。普段ルーデュニア聖王国王都セレーナに住んでいる身としては。

半日に一本の列車と聞くと、やはり田舎感が否めない。

午前の列車は既に発車してしまっているので、次は午後の便を待たなければならない。

「もどかしいね…。こうしている間にも、山越え組は少しずつ前に進んでるんだろうに…」

駅構内のベンチに座って待ちながら、天音さんが呟いた。

まぁ、それは仕方ないですね。

列車の辛いところですよ。

徒歩組は足こそ遅いものの、立ち止まらない限りは、着実に前に進むことが出来る。

一方列車組は、列車に乗り込みさえすれば速いものの、運行時間になるまで、駅から一歩も動けない。

声をかけられたらおしまい、という状況で、一箇所に留まっているのは、精神的にキツいものがある。

こうしている間にも、僕達のことを怪しんで見ている人がいるんじゃないか…って。

こういう時は、近くにいる人全員が、自分を盗み見てるんじゃないかと錯覚するものだ。

「…」

僕はさり気なく視線を周囲に向けて、近くにいる人々の心を読んだ。

彼らの心の中にあるのは、ありふれたつまらない事柄ばかりだった。

近くに座っている出張中の社会人っぽい男性は、書類を確認しながら、この後会社で行われる会議の内容を予習している。

反対側に座っている、旅行中っぽいおばさん二人組は、旅行の思い出話に夢中。

あちらの改札の向こうにいる駅員さんなんて、こちらを注視するどころか。

「あーダルい。早く帰ってビールでも飲みたいなぁ」なんて考えている。

皆が自分を見ているかもしれないなんて、それは僕らの自意識過剰というものですね。

誰も、こちらに注意を向ける人なんていません。

「良かったですね。誰もこちらに注意を向けていませんよ」

「ほ、本当?」

「ただ、向こうのOLっぽい女性は、『猫なんて連れてくるなよ』って思ってるようですが…」

「…好きで猫じゃないのに…」

マシュリさんが落ち込んでた。これは仕方ない。

世の中の人間が、皆猫好きだと思ったら大きな間違い。

キャリーケースに入れてるので許してください。

「こちらに注意を向けている人間がいないのは良いことですが、さすがにずっと一箇所に留まっているのは望ましくありませんね」

と、イレースさんが言った。

…そうですね。こうして座って待ってたら、嫌でも周囲の目に晒される訳で…。

ましてや僕ら、猫を連れているせいで、ちょっと目立っちゃってますもんね。

「列車が来るまで、少し駅の外を見て回ってみようか」

列車が来るまでの暇潰しも兼ねて。

天音さんの提案に従って、僕達は少し、駅の周囲を見て回ることにした。