「今一度聖賢者殿を暗殺し、手柄を立てて古巣である『アメノミコト』に戻るという選択も…」

「何それ?考えたことないね。そんなの成功する訳ないじゃん」

「そうですか?」

やろうと思えば、不可能ではないように思えるけれど。

例えば、今こうして間抜けヅラを晒して眠ってるところを、一突き…とか。

聖賢者殿はチョコレートがないと稼働出来ないそうだから、チョコレートのない空間に幽閉する、とか。

この二人が協力すれば、あながち夢ではないのでは?

「仮に暗殺に成功したとしても、一度失敗している以上、今更『アメノミコト』に僕らの居場所なんてないよ」 

「まーね。今更ノコノコ帰っていったって、褒められるどころか殺されるでしょ。『アメノミコト』はそーゆー組織だからね」

「それに、居場所があったとしても、あの場所にはもう帰りたくないしね」

「良い思い出ないもんねー」

…そうですか。

『アメノミコト』に帰るという選択肢はないと…。

「そうですか。それなら…聖賢者殿を殺して、自らが聖魔騎士団の頂点に立つという選択も…」

「何でさっきから、学院長を殺したがってるの?」

「別にそういう訳ではありませんが…」

あなた方の経歴なら、その方が分かりやすいかと思いまして。

「俺ら、別に聖魔騎士団の頂点に立ちたい訳じゃないんだけど」

「じゃあ、一体何の為に聖賢者殿の味方をしているのですか?」

他に選択肢は色々とあるはず。その力、才覚を利用すれば。

イーニシュフェルト魔導学院の生徒…よりも、名誉ある立場になることが。光輝く場所に立つことが。

それなのに、何故自らに足枷を嵌めるような真似をするのか?

「そんなこと、君だって聞かなくても分かるんじゃない?」

小太刀使いの元暗殺者殿が言った。

「そーだね。学院長せんせーのこと、ちょっとの間でも見てたら、分かるでしょ」

糸魔法使いの元暗殺者殿も。

「…そうですね」

少し前までの私なら、とても理解出来なかったでしょう。

でも、今なら分かる。

彼の傍で、この目で見てきたから。

「やってみないと分かんないと思うけどねー…。自分じゃない誰かの為に戦うのって、自分の為に戦う時より、ずっと強くなれるもんなんだよ。人間って」

「それから、一人で戦うより二人で戦う方が、もっともっと強いんだ。…学院長や羽久が、僕らにそのことを教えてくれたんだ」

…そうですか。

それが、神に反旗を翻してまで、聖賢者殿の為に戦う理由なのですね。

「さーて、そんな訳だから…。天使様が見張っててくれるなら、俺もちょっと寝よっかなー」

ぐっと背中を伸ばして、糸魔法使いの元暗殺者殿が草むらに座った。

小太刀使いの元暗殺者殿も、その隣に座り込んだ。

「じゃあ、僕も少し休むよ。見張り、宜しく」

「分かりました」

貴重なお話を聞かせて頂きましたからね。

どうぞ、朝までゆっくりお休みください。