――――――…深夜。聖賢者殿と時魔導師殿が、寝苦しい眠りに落ちた後。

「静かだね。人の気配がしない」

「山賊も寝てんのかなー。来ると思ったのに、つまんないねー」

二人の元暗殺者殿は、二人共まだまだ目が冴えているようだった。

…子供ながらに、寝ずの番を申し出てくれたところ、申し訳ないけれど。

「お二人共、眠って構いませんよ。私が見張りをしますから」

「何で?」

「もとより、天使は眠る必要がありませんから」

お二人が無理をなさなずとも、見張りなら私がすれば良い。

眠らない私は、どうせ他にすることは何もないのだから。

「ふーん。でも、どうせ僕もそんなに眠れないから」

「こーいう時は、下手に寝ようとするより、いっそ起きてた方がコンディション良いんだよねー」

…とのこと。

そうですか。では、お好きに。

…それよりも、聖賢者殿一行と、このアーリヤット皇国への旅に同行してからずっと、気になっていることがある。

仲間に危険を犯させるくらいなら、いっそ自分が、という聖賢者殿達の言動もそうだけど…。

「お二人に聞きたいことがあるのですが、良いですか」

「どーぞ」

「何?聞きたいことって」

聖賢者殿が眠っている今だからこそ、素直な気持ちを聞くことも出来るだろう。

「昼間、山賊を見事撃退した手際、あれは見事でした」

「そう」

褒められたにも関わらず、小太刀使いの元暗殺者殿は、当たり前のことでも言われたかのように頷いただけだった。

この程度、褒めるに値しないとでも?

「それに、船の中でも、アーリヤット皇国に入ってからも、非常に落ち着いた態度で…。とても年相応には見えません」

「ふーん。つまんないお褒めの言葉をどーも」

こちらも、全く無反応。

「で、べた褒めして、何が言いたい訳?」

…子供らしからぬ態度である。

人の褒め言葉を素直に受け取らない。甘い言葉の裏には、隠された悪意があるものと心から信じている。

この年齢で、一体どんな経験をしたらこのような人格が出来上がるのか。

私は何もない無の空間から、一冊の本を取り出した。

「…何それ?どっから出したの?」

「企業秘密です」

その本を開くと、二人の元暗殺者殿の過去が記録されていた。

…成程。このような経験をすると、このような人格が出来上がるということですか。

でも、それだけにやはり疑問である。

私は、ぱたんと本を閉じた。

「あなた方は、何故イーニシュフェルト魔導学院の生徒をやっているのですか?」

「何それ?どういう意味?」

「言葉通りの意味です。あなた方ほどの能力があれば、他に、いくらでも選択肢はあるはずでしょう?」

それこそ、今のあなた方なら。

聖賢者殿を暗殺するという、「本来の目的」を果たすことだって不可能ではないはずなのだ。