山賊と鉢合わせしたことで、時間を食ってしまったせいか。

山を越え切らないうちに、辺りが暗くなり始めた。

夜に山道を歩くのは大変危険である。

深夜の方が活動が活発化する、令月とすぐりはともかく。

最近老眼に悩まされて、足元が覚束ないシルナにとっては、夜の山道は辛いだろう。

「今夜は、この辺りで野営するしかなさそうだな…」

「その意見には賛成だけど、羽久が私に失礼なこと考えてる気がするな…」

それは気の所為だ。

「もー止まるの?まだ行けるんじゃない?」

「お前らは目が良いから暗闇でも歩けるだろうが、シルナは老眼だから無理なんだよ」

「あー成程。そっかー」

「やっぱり羽久が私に失礼なこと言ってる気がする!」

気の所為だ。

お前の為に言ってるんだよ

「仕方ないね。じゃあこの辺で休もうか…」

「はー疲れた…。チョコを食べて元気を出そう」

岩陰に腰を下ろして、早速チョコレートを頬張るシルナである。

「はぁ〜。疲れた身体に染み渡る〜っ」

「…お酒を飲んで気力を回復させる人間なら、いくらでも見たことがありますが…。聖賢者殿はチョコレートで英気を養うんですか?」

「良いことを教えてやるよ、リューイ…。機関車が石炭で動くように、シルナはチョコレートで動いてるんだよ」

「成程。ではこの世界からカカオの実を絶滅させれば、聖賢者殿の命はそこで終わりますね」

「リューイ君が恐ろしいことを言ってる!」

気の所為だ。

つーか、デカい声を出すな。また山賊が来るぞ。

「山賊が出るこの山の中で野宿か…。おちおち寝てられないな…」

どころか、焚き火も無理だぞ。煙なんか出したら、「ここに居ます」って教えてるようなもんだ。

何とか、安全に夜を越せれば良いのだが…。

「僕と『八千歳』が交代で見張りをするよ。僕らは三〜四徹くらい慣れてるから」

「山の中で野宿も慣れてるからねー」

と、令月とすぐりが申し出た。

マジかよ。子供に寝ずの番をさせて、大人がその横で寝るって有り得ないだろ。

「そこは全員で交代すべきだろ…?」

「寝不足で明日のペースが落ちたら困るから、君達は寝ててよ」

素人は寝てろ、だって。済みません。

ここは子供大人関係なく、適材適所でということか…。頼りなくて済まんな。

「…分かった。お前ら、夜中中起きてるなよ。ちゃんと交代で休むんだぞ」

「はいはい。おやすみー」

…じゃ、申し訳ないけど。

令月とすぐりに見張りを頼んで、俺とシルナは、少しでも眠るとしようか。