そのまま、山道を歩き続けること三時間。

段々と、深い森の奥に入り込んできたようだ。

木々が生い茂って、風が吹く度にざわざわと嫌な音を立てている。

雰囲気出てきたなぁ…。

木々の影から山賊が襲いかかってきても、全然不思議じゃない。

「は、羽久…。だ、大丈夫かな…?大丈夫だよね…?」

シルナ、ガクブル。

俺も少しずつ不安になってきた。

すると、その時。

バサバサバサッ、と木の葉が揺れる音がした。

びっくりした。

「ひぇぇぇっ!」

シルナは奇声をあげて、俺に飛びついてきた。

ちょ、離れろ馬鹿。

「出た、出た、出た〜っ!山賊〜っ!」

「聖賢者殿。あれはカラスです」

リューイが、物凄く冷静に教えてくれた。

音のした方を向くと、カラスが木の上にとまって、「カー、カー」とシルナを小馬鹿にしたように鳴いていた。

畜生…。なんか良いように遊ばれてる気がするぞ…。

「こうしてると、なんか…冥界を歩いていた時のことを思い出すな…」

俺は、マシュリの心臓を取り戻す為に、冥界を訪れた時のことを思い出していた。

あの時ベリクリーデと一緒に歩いていたのは、山道じゃなくて廃墟だったけど。

あの時も、何が出てくるのかと内心ビビりながら歩いていた。

「ひぇっ…。羽久、怖いこと思い出させないでよ…」

更にビビりまくっているシルナ。

あぁ、ごめんって…。

「あれに比べたら全然楽でしょー?少なくとも、ここで襲ってくるのは人間だからね」

「そうだね。ここなら、消化される心配はないし」

相変わらず、余裕綽々の令月とすぐり。

逞しい奴らだよ。少しは怯えるということを知らないのか?

…消化って、お前…。嫌なことを思い出すんじゃない。

「…そうでしたね。ここにいる皆さんは、冥界を訪れたんですよね」

俺達の真ん中を歩いていたリューイが、不意に口を開いた。

…ん?

「そうだけど…。マシュリの心臓を取り戻しにな」

そういや、あれはリューイのご主人様が…。

でも、その時のことは、今は水に流すべきだろう。

リューイのご主人様だって、マシュリを手に掛けるのは本意じゃなかったと言っていたらしいし。

「その時、皆さんは何を見たのですか?」

「…え?」

振り向いたリューイの表情は、いつになく真剣だった。