「列車ルート…お前がか?」

「別に山賊を怖がってる訳じゃないですよ」

「それは分かってるよ」

ナジュの実力の程は、俺だってよく分かっている。

山賊だろうと海賊だろうと、ナジュが遅れを取ることは有り得ない。

「こういう時こそ、僕の読心魔法を活かすべきでしょう?駅員や警備員に見つかりそうになったら、いち早く隠れます」

あぁ、そういうこと…。

読心魔法で周囲の人間の心を読みながら、巧みに気配を消して忍び込む作戦な。

ナジュだからこそ取れる戦法である。

「ナジュ君が行くなら、僕も行くよ」

次に、天音がそう言った。

「良いんですか?天音さん。人混みに紛れるには、いかに堂々と振る舞えるかが肝ですよ」

「うっ…。そ、そういうのは、正直あまり得意じゃないけど…」

天音は素直だからな。割とすぐに顔に出るタイプ。

俺も人のことは言えないが。

「でも、ナジュ君を一人で行かせる訳にはいかないよ」

きっぱり。

…反対しても、聞き入れそうにないな。

普段は優しいけれど、これで結構頑固なところあるんだよ。天音って。

それに、天音はそっちの方が良いかもな。

「天音は、あんまり戦闘向きじゃないからな…。山賊と戦うことになったら危ないだろうし…」

「いやぁ…。それは心配要りませんよ、羽久さん。天音さんが秘められしトゥルーフォームを解禁したら、山賊なんてまとめて撫で斬りに、もごもごもご」

「あ、あぁぁぁぁ!何でもない何でもない!ナジュ君、一緒に列車乗ろうね!」

…大丈夫か?

よく分からんが…。ナジュと天音は列車ルートってことで…。

「…イレース、お前はどっちにする?」

「私はどちらでも構いません」

そう言うと思った。

どんな状況に陥っても、イレースは冷静に、淡々と対処出来る芯の強さがある。

「イレースは、いついかなる時も堂々としてるからな…。堂々としてることが一番の変装だって言うし、ナジュと天音と一緒に、列車ルートに行ってくれるか」

「分かりました」

イレースが列車に乗ってたら、さながら通勤中のキャリアウーマンにしか見えないだろう。

堂々としているだけで、何より完璧な変装になる。

それから…。

「マシュリ、お前もナジュとイレース達について、列車ルートを案内してやってくれるか」

「構わないけど…。僕、そっちに行って良いの?」

アーリヤット皇国の土地に慣れてない俺達にとって、唯一この国の地理に明るいマシュリは、キーパーソンである。

しかし、その分マシュリは、顔が割れているという懸念点がある。

下手したら、お尋ね者になっている可能性もある。

マシュリが列車ルートに同行したら、山越えルートの方は当然、マシュリに案内してもらえない。

自力で皇都まで向かう必要がある。

でも、だからこそマシュリには、イレース達についていてやって欲しい。

「あぁ。猫の姿に『変化』して、イレース達を案内してやってくれ」

猫の姿なら、顔を見られてもマシュリだとは分からないはずだ。

ただの可愛い猫ちゃんにしか見えない。

「…分かった。それじゃ、今のうちに、山越えルートの簡単な地図を書いておく」

「ありがとう。頼む」

…この話の流れで、もう分かっていると思うが。

俺は、シルナと顔を見合わせた。

「俺とお前が山越えルート、ってことで良いよな?」

「うん、分かってるよ」

シルナも同じ考えだったらしく、即答した。

分かってくれると思ってたよ。シルナなら。

「じゃ、僕と『八千歳』も山越えだね」

「そーだね」

と、令月とすぐりが言った。

ちょっと待て。お前らは勝手に決めるんじゃない。