変装は遠慮して、マシュリの案内で目立たないように歩き続け。

そろそろ、人通りの多い都市に近づき始めた。

いよいよだな…。

「…提案なんだけど」

先導していたマシュリが、くるりとこちらを振り向いた。

「どうした?マシュリ…」

「この辺りで、二手に分かれるのはどうかな」

…何?

「二手に…?」

「皇都に向かうルートは、大きく分けて二つある。皇都の北側に出る山越えルートと、皇都の西側に出る列車ルート。基本的には、列車で向かうのが一般的だね」

山を越えるルートと、列車に乗るルート…。

どう考えても列車に乗った方が速そうだし、確実に皇都に辿り着くだろう。

しかし…。

「列車に乗るルートは、皇都に辿り着くまでに見つかる危険も多い。駅員に顔を見られるしね」

「じゃあ…時間がかかっても、山越えの方が安全なんじゃ…」

「そうとも言えない。山越えルートも負けないくらい危険だよ。何せ、山越えルートは山賊が出るから」

さ、山賊だと?

ルーデュニア聖王国では、まずお目にかかれない。

「山越えは、僕達みたいに表立って皇都に入れない不法滞在者が使う鉄板ルート。彼らにとっては良いカモなんだ」

「ま、マジで…?」

俺達、カツアゲでもされんの…?

「山賊にも色々種類があって、運が良ければ、危険な山道を案内する代わりに、莫大な案内料を巻き上げられるだけで済む」

「いや、それだけでも充分ヤバいと思うけど…」

「本当にヤバいのは、山の中で待ち伏せして、いきなり集団で襲いかかってきて身ぐるみを剥がされるパターン」

完全に追い剥ぎ。

「荷物を全部奪われるくらいなら、まだ優しいものだよ。僕がまだ『HOME』にいた頃、たまに、山の中でバラバラの惨殺死体が見つかったこともある」

「ひぇっ…」

身ぐるみ剥がされた上に、山賊に惨殺されたってことかよ。

恐ろしい。ある意味冥界より恐ろしい場所だ。

そんな話を聞かされたら、とてもじゃないけど山越えしようとは思えない。

「成程、それで二手に分かれようという訳ですね」

「うん。どちらのルートを使ったとしても、危険はある。せめて少しでもリスクを分散させた方が良い」

そうか…。確かにそうだな…。

どっちみち、ここまで来た以上、リスクを避けて通ることは出来ない。

あとは、どちらのリスクを取るかだ。

いずれにしても、皇都までこの人数で固まって動いてたら、嫌でも目立つもんな。

二つのグループに分けて、片方に何かあったとしても、もう片方が助けられる体制を取るべきだ。

皇都の駅員や警備員に見つかるリスクを取るか…。

山の中を彷徨いてる山賊に襲われるリスクを取るか…。

…どっちを選んでも悪夢のようだが。

「僕は列車ルートにします。それが順当でしょう」

まず真っ先に、ナジュがそう名乗り出た。