その後の船旅については、多くを語ることはない。

とにかくずっと、船酔いでしんどかった。それだけ。

だから、ようやく船が目的地に着いた時は、それはもう嬉しかった。

陸地最高。やっぱり人類は、大地に足を踏みしめて生きるべき種族だな。

…なんて、つまらないことを真剣に考えてしまうくらいに、船旅はキツかった。

折角ここまで送ってくれたのに、生意気言って申し訳ない。

だが、いつまでも陸地の有り難みに酔いしれている場合じゃない。

俺達には目的があるのだ。急がなくては。





「さぁ、ここから…アーリヤット皇国に向かわないとな」

現在地は、アーリヤット皇国の隣国。国境沿いに近い港街である。

ここから、次はいよいよ、目的地であるアーリヤット皇国に向かわなければならない。

さて、どうしたものかな…。

「正規のルートを使うのであれば、列車で向かうのが妥当だけど…」

この辺りの地理に明るいマシュリが、そう教えてくれたが…。

当然、今回は正規の入国ルートは使えない。

俺達、現在不法入国者だから。

見つかったら即刻お縄。

「正規ルートは無理だ。こっそり、姿を見られないように入国しないと…」

「だったら、密入国ルートを通るしかないね。アーリヤット皇国に繋がる川を越えるしかない」

「川…」

…もしかして、泳いで渡るしかないってこと?

「我々はともかく、パンダ学院長に川を泳いで渡れ、というのは無理ですよ。あっという間に流されるのがオチです」

「イレースちゃん、酷い!」

酷くねーよ。イレースの言う通りだろ。

かく言う俺も、泳ぎは得意ではない。

しかし。

「大丈夫だよ。川の近くには、密入国を手引きする橋渡し人がいる。報酬次第で、船を出して無事に川を渡らせてくれるよ」

と、マシュリが教えてくれた。

何だろう…。俺達にとっては、文字通り渡りに船、な情報なのだが。

アーリヤット皇国の闇を見たような気がするな…。

「さすが。詳しいんだな、マシュリ…」

いくら、アーリヤット皇国に住んでいたことがあると言っても…。

密入国を手引きするブローカーの存在まで知っているとは…。

すると。

「『HOME』にいた頃、そういうブローカーを取り締まる仕事を命じられたことがあるから…」

「あ、そうだったのか…」

…成程、そりゃ詳しい訳だ。

ごめん。あんまり…思い出したくないことを聞いてしまったな。

「えっと…。マシュリ、ごめん…」

「気にしなくて良いよ。昔のことだから」

そうは言うけど…。

「それより、急ごう。人に姿を見られない方が良い」

「あ、あぁ…そうだな」

いよいよ、これから本格的にアーリヤット皇国の領土に踏み入ろうとしているのだ。

気を抜くことは出来ない。最大限、注意して進まなくては。