それなのにシルナと来たら、まるで遠足にでも来たかのようなテンション。

「さぁさぁ、チョコレート食べよー。景気づけに!」

陰鬱な気分を振り払うように、早速、チョコレートを頬張っていた。

元気な奴…。

つーか、これから船旅が始まるのに、ものを食べない方が良いんじゃないのか?

しかしシルナは、全くそんなことは気にしておらず。

ばくばくと、凄まじい勢いでチョコレートを食べていた。

…。

後で、船酔いで気持ち悪くなっても知らないぞ。 






…その一時間後、いよいよ、船がルーデュニア聖王国の港を離れて出港した。

で、船が動き始めてから、僅か一時間足らずで。

案の定。

「うぇぇ…。気持ち悪くなってきた…」

「…言わんこっちゃない…」

シルナ、早速船酔いを発動。

「チョコレートが…。私の胃の中で、チョコレートが反乱を起こしてる…」

「だから、余計なもん食べるなって…」

「チョコは余計じゃないもん!チョコレートは悪くない…。美味しいチョコレートに…罪なんてあろうはずがないんだ…」

…何言ってんの?お前。

船酔いのせいで、頭が回らなくなってきたと見える。

まぁ、確かにチョコレートは悪くないな。

これから船旅が始まるっていうのに、考えなしに、ばくばくとおやつを頬張ったシルナが悪い。

知ーらね。自業自得だし、放っとこう。

かく言う俺も、段々気持ち悪くなってきた。

…船旅とか、全然慣れてないもんな…。

おまけに、甲板に出て新鮮な空気を吸えるならともかく。

密閉された貨物室の中の空気は、どんよりと淀んでいた。

こんな環境じゃ、船酔いになるのも当然というものだ。

船酔いに苦しめられているのは、俺だけではなく。

「天音さん、大丈夫ですか?」

「…うん…。大丈夫…」

ナジュが尋ねると、天音は力のない声でそう答えた。

大丈夫とは言ってるが、全然大丈夫そうな顔してないぞ。

目が死んでる。早くも。

天音も船酔いか…。辛そうだな。

「ナジュ君は…?大丈夫なの…?」

「僕は不死身ですから。船酔いくらい余裕です」

そうか。羨ましいな。

不死身であることと船酔いしないことに、何の関係があるんだ?

それに…。

「イレース…。何やってるんだ?」

「書類仕事です」

驚いたことに。

イレースは、なんと船の中で、持参した書類仕事をせっせと進めていた。

嘘だろ…?こんなところまで来て…?

「気持ち悪くないのか…?」

ただでさえ、上に下にと揺れて気持ち悪いのに。

こんな中で、細かい文字を見るなんて。

余計気持ち悪くなりそうなもんだが、イレースはけろっとしていた。

「問題ありません。暇を持て余して時間を無駄にする方が、よっぽど気持ち悪いです」

「そ、そうか…」

いかにもイレースらしい。強気でいれば、船酔いさえ振り払えるってか?