「なぁ、シュークリーム食ってる場合か?おい。これから敵国に密入国しようって奴が、呑気にシュークリーム食ってる場合かよ…!?」

「ちょ、怖いよ羽久。怖いってば!」

鬼の如き形相で詰め寄ると、シルナはたじたじであった。

うるせぇ。ぶん殴られなかっただけ感謝しろ。

「大丈夫だよ。羽久の分もあるから。はい」

何が大丈夫なんだよ。

俺は別に、自分もチョコシュークリームが食べたかった訳じゃない。

「お前分かってんのか?これから敵国に潜入する作戦を考えようって時に、呑気にシュークリーム食ってる馬鹿が何処にいるんだよ…!?」

「こ、これは、その…違うんだよ羽久!」

ほう?

「何が違うって言うんだよ?」

「それは…えぇと…。チョコを…アーリヤット皇国に潜入するなら、チョコをいっぱい持っていった方が良いと思ったんだよ」

真面目な顔して何言ってんの?

姿を隠して潜入するとなれば神経使うし、そうすると糖分が必要だよな。うん、分かる分かる。

…って、分かるか。

「それで手持ちのおやつを荷造りしてたんだけど…。そこでこのシュークリームを見つけたんだ。昨日買ってきたの。皆で食べようと思って」

「…」

「でもシュークリームは要冷蔵でしょ?だから持ち運びには適さないかなぁと思って。だったら、腐らせるのも勿体ないし、今のうちに食べておこうと思ったんだよ」

ドヤ、と何故かドヤ顔。

…そうか。実に下らない時間だったな。

世界一どうでも良い説明の時間だった。

「皆も食べよう、ほらほら。糖分は大事だよ。アーリヤット皇国に行ったら食べられなくなるからね。今のうちに食べておこう」

一生やってろ。もう付き合いきれん。

そういや、そういうメンツだったな…。まともに危機感を抱いてる奴が一人もいない…。 

全く、こんなんで本当にアーリヤット皇国潜入なんて出来るのか、と不安を抱き始めた…、

…その時だった。





「皆さん、お取り込み中のところ申し訳ありません」

「うわっ…」

突如として、目の前に大きな白い翼が広がった。

「お前…リューイ…!」

『ムシ』を討伐した後、いつの間にか姿を消していた天使が、再び俺達の前に姿を現した。

こいつ…神出鬼没か?