令月とすぐりは、園芸部の畑にいる。

「…じゃ、マシュリは?」

「さぁ。マシュリさんは読心魔法が効きませんからね。でも、大体何処にいるのかは検討が…」

と、ナジュが言いかけたその時。

噂をすれば、猫形態のマシュリが、窓の外からひょいっと室内に飛び込んできた。

おぉ、来た。

窓から入ってくんな。

「マシュリ…。お前、何処行ってたんだ?」

「猫仲間のところ」

何?

マシュリは、その場でくるっと一回転。

人間の姿に『変化』し直した。

「この間、協力さてもらったお礼に、約束の猫缶をプレゼントしてきたんだ」

「あぁ…成程…」

その節はどうも。

マシュリの猫仲間、ネコミュニティの皆さんには大変世話になった。

猫缶くらい、シルナのポケットマネーでいくらでも買って、いくらでも振る舞ってあげてくれ。

「マシュリの猫仲間もそうだが、珠蓮にも世話になったよな…」

「うん…。でも、珠蓮君、全然お礼を受け取ってくれなくて…」

あの後、珠蓮はすぐにまたルーデュニア聖王国を去っていった。

お礼を申し出たのだが、丁重に辞退されてしまった。

「また何かあれば呼んでくれ」と言い残して、また旅立っていった。

申し訳ないなぁ…。せめて、落ち着いてお礼くらいさせてくれよ。

「これ以上、色んな人に迷惑をかける訳にはいかない。…早く、元凶を何とかしないとね」

「…それは分かってる。でも、どうするつもりだ?」

フユリ様の説得にも応じてくれないのに、他の誰がナツキ様を正気に戻すことが…。

「この国であれこれ話し合いをしてても、事態は何も解決しない。…ともかく、現場に行ってみないと」

「現場…?」

…シルナ、まさか。

「…行くつもりなのか?アーリヤット皇国に、直接?」

「…うん。もう、それしか方法はないと思う」

そりゃまた…思い切った作戦だ。

原因の大本を、直接断つつもりか。

確かに、それが一番確実で…でも、一番困難な道だ。

「私は賛成ですよ。天使ごときに洗脳されるような馬鹿は、ぐだぐだと回りくどい真似をするより、取っ捕まえて二、三発ぶん殴った方が早い」

珍しく、イレースはシルナの案に賛成。

…イレース。相手は、仮にも一国の王様だぞ。フユリ様のお兄さんなんだぞ?

ぶん殴ったら国際問題だろ。

「ぼ、暴力は良くないと思うけど…。でも、直接アーリヤット皇国に行くしかないっていう意見には、僕も賛成かな…」

「『ムシ』に洗脳されていた僕らがそうだったように、ともかく術者から離すのが一番でしょうね」

天音と、ナジュが言った。

…そうだな。

『ムシ』に洗脳されていたイレース達が、『ムシ』を体内から引き離すことで洗脳が解けたように。

天使に洗脳されているナツキ様も、その天使達から引き離すことによって、洗脳が解けるかもしれない。

何はともあれ、まずは原因の大本から、ナツキ様を救出する。

その為には、俺達が直接、アーリヤット皇国に赴くしかない。