『ムシ』のせいで凶暴性を増しているとは言っても、ここまでとは。

生徒を巻き込んでも構わないから、賊退治を優先しろ、とは。

普段、何としても学院の諍いに生徒を巻き込まないよう、精一杯苦心している学院長が聞いたら、なんて言うだろうね。

しかも恐ろしいことに、誰もその過激な意見に反対する者はいなかった。

賊を討伐する為なら、生徒が巻き込まれても仕方ない、と納得しているようだった。

…まともな人がいないね。

最悪、学院の校舎を木っ端微塵にしてでも、学院長を殺すことを優先しそうだ。

「待ってる時間が惜しい。すぐにでも、学院に乗り込もうぜ」

「分かっています。準備が完了次第、すぐさまイーニシュフェルト魔導学院に攻め込みます」

そう言う聖魔騎士団副団長の目は、ギラギラと血走っている。

…どうやら、一刻の猶予もなさそうだね。

可能なら、この天井裏から隙をついて、彼らの『ムシ』を退治出来るかもしれないと思ったけど…。

残念ながら、それは無理そうだ。

危険を冒すのは怖くないけど、危険を冒して、また羽久に怒られるのは嫌だからね。

「…」

僕は、隣にいる『八千歳』と目配せした。

『八千歳』はすぐにその意図を察して、小さく頷いた。

ぐずぐずしていられない。

聖魔騎士団が学院に攻め込んでくる前に、こちらも対策を立てなくては。

僕と『八千歳』はこっそりその場を去り、全速力でイーニシュフェルト魔導学院に戻ることにした。