しかし。

小さな種を蒔くことさえ、私達にとっては容易ではなかった。

「…情けない。この体たらくよ」

仲間の一人が、心底呆れたように呟いた。

私は何も言い返せなかった。

その通り。

私達の目論見は、今のところ、ほとんど全て失敗に終わっていた。

私が蒔いた種は、まず、主である聖神ルデスの器を用意することだった。

聖なる神をその身に宿す、選ばれし器。

その器となり得る人間を探すのに、大変な苦労をした。

しかし、無事に器となり得る人間を見つけ、聖なる神の意識を宿すことに成功した。

いずれ時が来れば、器の中に主の力が満ち、器の人格は消え、その器に主の人格が宿る。

…はずだった。

私の目論見は外れた。

器は確かに聖神ルデスの意識を宿している。

しかし、それだけだ。

器に宿った主の意識は、宿主の人格を書き換えることまでは出来なかった。

器に宿った人格は、元の人間のままだ。

それどころか、その人格は、主の意識を宿すという本来の目的とは正反対。

裏切り者に味方し、聖なる神の力を宿していながら、その力を邪神の為に使っているのだ。

断じて許されることではなかった。

目論見が外れるどころか、もっと最悪な事態を引き起こしてしまった。

何人たりとも、聖なる神の力を私利私欲の為に使ってはならないというのに。

この大きな失敗だけではない。

私達は小さな種を蒔き、運命を引き合わせ、裏切り者シルナ・エインリーにけしかけてきた。

しかしそのどれもが、失敗に終わっていた。

私達がここまでしても、裏切り者に致命的な一撃を与えることは出来ないでいる。

認めよう。

あの裏切り者、シルナ・エインリーの力量、才覚は並大抵のものではないと。

私達もまた、考え直さねばならない。

このまま手をこまねいていることは出来ない。

その為に、私は新たな種を蒔いて…。



…しかし。



「こうなっては、やはり我々が直接手を下す他あるまい」

私の仲間の一人が、厳かに提案した。