――――――…その頃、裏門付近で元暗殺者二人と対峙している、俺とベリクリーデ…いや、ベリーシュはと言うと。



…これは、結構不味いかもな。

俺は、『魔剣ティルフィング』の柄をぐっと握り締めた。

旗色が悪い。

まさか、こんな遥かに年下の子供達に苦戦させられるとはな。

条件が五分だったら負けないつもりだったが。

俺とベリーシュは、あくまで令月とすぐりを殺さないよう、怪我させないよう、加減して戦わなければならない。

一方で向こうの二人は、容赦なく全力で、俺達を殺しにかかってくる。

『魔剣ティルフィング』の力を全部解放すれば、あっという間に制圧出来るのは分かっている。

だが、この剣は強力過ぎる。力を全て解放しようものなら、令月もすぐりも、ただでは済まない。

おまけに、ベリーシュの持っている星辰剣も。

ベリーシュの星辰剣は、夜、星の出ている時間に真価を発揮するという特性がある。

夜は強いが、昼間はそうでもないという訳だ。

そして、現在は昼間。

『魔剣ティルフィング』と同じく、星辰剣も力をセーブした状態で戦っている。

それに加えて、令月とすぐり、二人の元暗殺者の連携。

…徐々に追い詰められているのを感じていた。

不味いな。さすがに、これ以上は持たないかもしれない。 

「…」

チラリと傍らのベリーシュを見ると、彼女は無言で星辰剣を構えていた。

表情に出して悟られないようにしているが、あいつも、旗色が悪いことは自覚しているはずだ。

…何としても、状況を打開しないと不味いな。

「そろそろケリをつけようか」

令月の両手の小太刀が、鈍い煌めきを放っていた。

「…お前ら、いい加減にしろよ」

「は?」

怒りを滲ませた声音で、俺は令月とすぐりの二人にそう言った。

「お前らは、シルナ・エインリーと羽久・グラスフィアの二人に恩があるんじゃないのか」

「…一体何の話?」

「『ムシ』なんかに支配されて、良いように操られて、恥ずかしくねぇのかよ?」

あ、やべ。あんまり煽るのは良くないな。

つい本音が。

一度口から出てしまった言葉は、もう引っ込みがつかない。

「ジャマ王国の暗殺者集団に飼われていたお前らが、何でこの学院にいるのか。それを考えたことはないのか?」

シルナと羽久の二人がいなければ、こいつらがこのイーニシュフェルト魔導学院にいることは有り得なかった。

そうだろう?

「思い出せよ。今のお前達が、どうしてこの学院にいるのか。それは誰のお陰なのか、思い出せ!」

「…関係のない話をしたら、僕らが動揺すると思った?」

「…!」

…駄目か。やっぱり。

「おおかた、時間稼ぎってところかなー?浅知恵だねー」

…時間稼ぎだってバレてるし。

問答無用の元暗殺者。さすがに、こんな安っぽい時間稼ぎには乗ってくれないか。

…ワンチャン、思い出してくれるかと思ったんだがな。

やはり、それほど甘くはないらしい。