そして、天音はと言うと。

「…あれっ?えっ?」

ようやく、目に正気が戻った。

「が、学院長…!羽久さんも…」

「良かった、天音君。記憶が戻ったんだね…!」

「…!僕、何で皆のこと忘れて…」

良かった。一人称が「僕」に戻ってる。

やっぱり天音はこうじゃないとな。

「…!ナジュ君、大丈夫!?」

腕が消し飛び、胸に剣を突き立てられたナジュを見つけて、天音は慌てて駆け寄った。

「あぁ、大丈夫大丈夫。このくらい平気ですよ」

「…!僕は、ナジュ君になんてことを…!」

絶望したような表情で、天音は酷い自責に苛まれているようだった。

気持ちは分かるが、それは天音の責任じゃない。

「ごめん、ごめんねナジュ君…!僕はなんて酷いことを…!」

「あぁ、気にしなくて良いですよ。ちょっと腕が飛んで肺が潰れただけじゃないですか」

それは「だけ」とは言わないんだよ。

全然フォローになってない。むしろ天音を追い詰めてないか?

「悪いのはあなたではなく、あれですよ」

ナジュは左手で、床の上を指差した。

「うっ…」

ピンク色の肉の塊のような『ムシ』を見て、天音は思わずぎょっとしていた。

…まぁ、誰でも初見はそうなるよな。

「な、何…?あれは…」

「あれが、僕や天音さんの心臓の中に住んでたそうです。そのせいで僕ら、学院長や羽久さんのことを忘れていたんだとか…」

「う、嘘でしょ…?」

嘘だったら良かったんだけどなぁ。

残念ながら、これが嘘でも冗談でもないんだよな。

「何でそんなことに…?誰が僕らにこんなことをさせて…」

「その話は、恐らく後で学院長達から詳しく話してもらえるでしょう」

「…そうだね」

と、シルナは頷いた。

「聞きたいことが山程あるのは分かる。だが、今はそれより、残りの三人…イレースと令月達を正気に戻すのが先だ」

改めて、裏門に戻ってジュリスとベリクリーデの加勢に入らなくては。

ぐずぐずしてられない。

「天音、ここでナジュを治してやってくれるか」

「う、うん」

「その間に、俺らは令月達のところに戻る」

そして、今度はあいつらを正気に戻すのだ。

「よし、行くぞ。シルナ、マシュリも」

「うん」

「分かった」

俺達三人は、ナジュと天音をその場に置いて、急いで裏門に走った。

どうか、無事でいてくれよ。ジュリス、ベリクリーデ。