「君じゃ、『俺』には勝てないよ」

「さて、それはどうでしょうかね?」

やめとけ、ナジュ。煽るんじゃない。天音は本気だぞ。

いつもの天音じゃないんだ。『ムシ』のせいで、より凶暴な性格に…。

「さよなら」

「…!」

天音は、容赦なく剣を振るった。

その凄まじい剣速と言ったら、令月に負けず劣らず。

まさか、天音にこんな動きが出来るなんて。

いや、そんなことより。

「ナジュ!避け…」

俺が叫ぶまでもなく、ナジュは身を屈めて一太刀目を躱した。

嘘だろ。あの速度が見えてるのかよ。

しかし、二太刀目は完全に躱すことは出来なかった。

天音の左手で振るった剣が、ナジュの右手を付け根から切り落とした。

お…恐れていたことが…!

「ナジュ!今助けに、」

「来なくて良いです」

は!?

咄嗟に割って入ろうとしたが、当のナジュに止められた。

腕を切り落とされたというのに、ナジュは顔色一つ変えなかった。

どころか、そのまま天音に向かって突進した。

「…!?」

まさか突っ込んでくるとは思わなかったらしく、これには天音も虚を突かれたようで。

一瞬狼狽え、動きが鈍った。

当たり前だ。誰が腕を切り落とされたのに、平然と突っ込んでくる馬鹿がいるのか。

その馬鹿…ナジュは、残った左手に風魔法の刃を出現させた。

「っ!」

それを見て、天音は再度剣を構え、容赦なく突き出した。

その天音の剣が、ナジュの胸にグサリと突き刺さると同時に。

刺し違えたナジュの風魔法が、天音の胸元を浅く切り裂いた。

やっ…。

…やりやがった。

両者痛み分け、と言いたいところだが、腕を切り落とされ、おまえに胸に深々と剣が突き刺さってるナジュの方が、遥かに重症である。

と言うか、普通の人ならとっくに死んでる。

…普通の人なら、な。

「ナジュ!馬鹿、お前…!」

「いたたた…。もー、痛いじゃないですか」

「いたた」程度で済ませられる辺り、ナジュも伊達に何度も死んでないってことか。

だが、そういう問題じゃない。

不死身だからって無茶すんなって、何回言ったら…!

「でも、その甲斐はありましたよ」

と言って、ナジュは床の上を指差した。

そこには、天音の心臓に巣食っていた『ムシ』が、苦しそうに身を捩っていた。

…出た。やっぱり気持ち悪い。