ともあれ。

ナジュを正気に戻すことに成功した。

それは良いとして、喜んでばかりはいられない。

こうしている今も、ジュリスとベリクリーデが、令月とすぐりを足止めしてくれているのだ。

「急いで裏門に戻ろう。ジュリス達を手助けに…」

と、言いかけたその時。

「ナジュ君!大丈夫!?」

「げっ…」

ごめん、げって言っちゃった。

異変を聞きつけたらしく、両手に剣を構えた天音が、部屋の中に飛び込んできた。

いや待て。これはむしろチャンスかもしれない。

ナジュに続いて、天音も正気に戻すチャンス。

俺達の言葉は届かなくても、ナジュの言葉なら天音も聞いてくれるかも。

「君達は今朝の…!性懲りもなく、また…!」

案の定、敵意剥き出しの天音。

「ナジュ君、そいつらから離れて!今度こそ仕留め…」

「落ち着いてください、天音さん。そして思い出してください」

「えっ…?」

記憶が戻った瞬間、俺の心を読みまくったナジュが、早速天音の説得にかかった。

頼むぞ。

「彼らは味方です。僕達、元々同じ学院の教師仲間なんですよ。こっちが学院長で、こっちが同僚の羽久さん。それからこっちが…マスコット猫です」

「えっ、猫…!?」

…今、マシュリは人間の姿だから、猫って言われても全然ピンと来ないだろうな。

でも猫なんだよ。

「何言ってるの、ナジュ君…?」

「あなたは心臓の中にいる芋虫みたいなのに、脳みそを操られてるんですよ。今取り出しますから、動かないでください」

「…近寄らないで!」

「!」

ナジュが一歩前に出ようとすると、天音は鋭く拒絶した。

「…そう、ナジュ君は敵の手に落ちたんだ。そんな得体の知れない連中に騙されて、『俺』の敵に回るんだ」

…やべぇ。

天音の声が、段々低くなっていく。

普段の天音だったら、ナジュの言葉に耳を貸すはずだ。いきなり襲いかかってなんかこないはずだ。

やっぱり、『ムシ』に性格を歪められて…。

「天音さん、トゥルーフォームが出ちゃってますよ。記憶を取り戻した後、己の黒歴史に悶絶したくないなら、即刻その口調は改めるべきです」

「『俺』は敵の言葉に耳は貸さない。君が敵の手に落ちたなら、一緒に斬り捨てるまで」

そう言って、天音は両手の剣を構えた。

天音とは思えない、凄まじい殺気である。

…ヤバい。物凄くヤバい。

「くそっ、『ムシ』のせいで…。天音がこんな…別人みたいに…!」

「ある意味で、こっちが本物って感じですけどね」

「は?」

本物って?どういう意味?

「心配しなくても大丈夫ですよ。トゥルーフォームの天音さんは、確かに強いですけど…」

「…けど?」

「読心魔法を思い出したこの僕に、恐れるものなどありません」

何故か、ナジュはドヤ顔だった。

…何だろう。なんか嫌な予感するんだけど。