「のこのこ戻ってくるとは。馬鹿なのかなー?それとも命知らず?」

同じく黒装束を身に纏い、両手に糸を絡ませたすぐりが、殺気を滲ませてこちらを睨んでいた。

凄まじい迫力。

本気の令月とすぐりを前に、果たして切り抜けることが出来るのだろうか。

「あるいは、そこまでして成し遂げたい何かがあるのかな?」

「…あぁ。その通りだ」

よく分かってるじゃないか。

あるんだよ、俺には。お前達を正気に戻すという、大事な役目がな。

だから、こんなところで足止めを食う訳には…。

「…仕方ねぇ。ここは俺と…ベリクリーデに任せろ」

そう言って、ジュリスが一歩前に出た。

「ジュリス…!お前…」

「早く行けよ。ぐずぐずしてる時間が惜しい」

「でも、お前とベリクリーデだけじゃ…」

いくらジュリスといえども、正直、本気になった令月とすぐりの連携を前に、無傷でいられるとは思えない。

それにベリクリーデだって、彼女は実力こそあるものの、火力に物を言わせた大雑把な魔法が、彼女の売り。

令月とすぐりみたいな、暗殺者らしい精密、かつ繊細な戦術が得意なタイプとは、非常に相性が悪い。

…しかし…。

「心配するな。この程度のピンチ、軽く乗り越えてみせるさ」

「…何か、策があるんだな?」

「そんなところだ。だからさっさと行け」

…分かった。それなら。

ジュリスを信じて、この場は任せる。

「行こう、羽久。マシュリ君」

「あぁ」

「分かった」

ジュリスとベリクリーデをその場に置いて、俺達は背中を向けて駆け出した。

「逃がすと思って…」

「お前らの相手は俺だ」

俺達を追いかけようとした令月を、ジュリスが止めた。

「…君ら二人だけで、俺と『八千代』を止められると思ってんの?」

すぐりは、いかにも不機嫌そうな顔でジュリスとベリクリーデを睨んだ。

「やると言ったんだから、やってみせるさ。…どんな手段を使ってもな」

ジュリスは、自分の身体の中に封印していた「それ」を…。

『魔剣ティルフィング』を手に、構えた。

禍々しい魔力が奔流し、さすがの令月とすぐりも、半歩引いて警戒を強めた。

更に、ジュリスは。

「起きろ、ベリーシュ。見てるんだろ?」

傍らにいるベリクリーデに、いや…正しくは、そのベリクリーデの中にいる「もう一人」に呼びかけた。

「力を貸してくれ。お前の力が必要なんだ」

「…」

ジュリスの呼びかけに、「彼女」…ベリーシュが目を覚ました。

「…分かった。手伝うよ」

「よし…。頼むぞ。この場を切り抜ける」

ベリクリーデと入れ替わって、表に出てきたベリーシュは。

両手に、長さの違う剣…愛用の星辰剣を構えた。

ジュリスとベリーシュ、二人の雰囲気がガラリと変わったのを見て、令月とすぐりは。

「雰囲気が変わったね。…厄介そうだ」

「多少は骨がありそうじゃん。いーよ。受けて立つよ」

一切怯むことなく、ジュリスとベリクリーデに対峙した。