「どういうことだ?シルナ…」

「羽久も覚えてるでしょ?さっき、二度目に学院に戻った時」

職員室で、ナジュに鉢合わせした時のことだな?

「あの時、ナジュ君は明らかに様子がおかしかった」

「それは…そうだけど…」

それは、俺も覚えてるけど。

「でも、様子がおかしいのは、皆そうだろ?」

ナジュに限った話じゃない。天音もイレースも令月もすぐりも、皆おかしかった。

「そうだけど、でも他の皆が私達に杖を向けている中、ナジュ君だけはそうしなかったでしょ?」

「…そういえば…」

あの時俺は、不覚にもナジュの痛いところをついてしまって…。

リリスのことを思い出させてしまって、酷く苦しんでいるようだった…。

…知らなかったとはいえ、あれは悪いことしてしまった。

「それは、確かにおかしいですね」

「リューイ?」

リューイが、横から口を挟んできた。

「『ムシ』に精神を乗っ取られると、その者は本来の性格より攻撃的に、好戦的になるはずですから」

そうなのか?

そういや、覚えがある。

普段は平和主義で、戦うのが嫌いなはずの天音が、ろくに話も聞かずにこちらに剣を向けてきた。

「シュニィが問答無用で襲ってきたのも、それが理由か…」

と、ジュリスが呟いた。

そうらしいな。

おかしいと思った。普段のシュニィなら、例え侵入者が現れたとしても。

向こうが攻撃してこない限り、出来るだけ話し合いで解決しようとするはずだから。

それなのに、問答無用で襲ってきたのは、『ムシ』に性格まで変えられているから。

…人間の性格まで歪ませてしまうとは。なんて恐ろしい寄生虫なんだ。

「でも…皆が『ムシ』のせいで攻撃的になってるのに、ナジュだけはそうなってなかった…」

…何でだ?

その答えは、リューイが教えてくれた。

「確か読心魔導師殿は、冥界の魔物と融合しているそうですね」

「あ…。うん、リリスのことだろ?」

「恐らくそのせいでしょう。『ムシ』は、魔物には効きませんから。半分魔物の魂が混ざっている読心魔導師殿には、『ムシ』の作用が効きにくくなっているのかもしれません」

マジかよ。そんなことあんの?

成程。それじゃあ、ナジュは比較的…正気に戻ってもらいやすい、ってことなのか。

さすが自称イケメンカリスマ教師。ナイスだ。

「よし。それじゃあ、最初のターゲットはナジュだな」

「うん。ナジュ君が正気に戻ってくれたら、天音君を説得してもらえるかもしれないし…」

そうなったら最高だな。

果たして、それほど上手く行くかどうかは分からないが…。

上手く行かなかったとしても、いずれにしても俺達のやるべきことは変わらない。

やるしかないのだ。