アーリヤット皇国とルーデュニア聖王国を巡る、あの一連の事件。

あれはナツキ様ではなく、もっと高位その存在…。

天使共の思惑によって、引き起こされたものだった。

人間の意志を何だと思ってるんだ。勝手に操り人形みたいに利用して…。

「ミカエルとラファエルは皇王殿の側近の振りをして、催眠魔法と幻覚魔法で皇王殿を操っているようです」

「そうか…。だからナツキ様は、突然ルーデュニア聖王国と戦争を始めようとして…」

…うん?ちょっと待てよ。

二人の大天使が…ナツキ様の側近を装って?

しかも、催眠魔法と幻覚魔法を使うって…。

…こちらも、思い当たる節がある。

「…その大天使って、もしかしてハクロとコクロのことか?」

「えぇ。確かそのような名前で潜入していると聞いています」

マジかよ。

「…」

「…」

俺とシルナは、互いに目を見開いて互いを見つめ合った。

…アーリヤット皇国との決闘の時、俺とシルナが戦った相手。

俺はシルナのいない世界を、シルナは俺のいない世界を、それぞれ見せられた…。

あの時戦ったハクロとコクロが、実ははの正体はリューイの同僚で、大天使ミカエルと大天使ラファエルだったというのか。

全ッ然気づかなかった。

天使の羽根なんて生えてなかったし。

でも、何処か不気味な、怪しい奴らだとは思ってた。

まさか天使だとは…。いや、そんなの気づくかっての…。

「ナツキ様がハクロとコクロを従えてるんじゃなくて…。実はハクロとコクロが、ナツキ様を利用してたっていうのか…」

「えぇ、そういうことです」

…やっぱり、ナツキ様可哀想じゃね?

散々ムカつく奴だと思ってたけど、なんか同情してきた。

操られてたんなら、ナツキ様は悪くねーじゃん。

「で、その大天使二人は、決闘でシルナを負かそうと、意気揚々とナツキ様に決闘を企画させたにも関わらず…あっさり負けて地団駄踏んでる訳だな?」

そう思うと、非常に痛快だが。

しかし、真実はもっと複雑だった。

「いいえ。あの決闘については、私も把握しています。あの決闘での敗北は、ミカエルとラファエルの想定内。いえ、予定通りと言ったところでしょうか」

…何だと?

決闘の勝敗までもが、全て仕組まれていたことだとでも言うのか?

俺達は何もかも、自分の意志を貫いて行動してきたのに。

その実、天使達の手のひらの上で、良いようにコロコロ転がされていただけだって…?

…そんな滑稽な話があるか?

「無論、決闘で勝利出来るなら、それが一番手っ取り早い方法でしたが…。万が一敗北した時の為に、新たな『種』を蒔いていたのです」

「…この際、もう何を言われても驚かないよ。全部聞かせてくれ」

驚くのは、後にまとめて取っておくよ。