シルナの空間魔法によって、俺達は元いた場所を離れ、異空間に転移した。

「…ここなら安全だと思う」

「そうか…」

見つからない為には、仕方ないな。

「ほぇー。一瞬でワープしたよ、ジュリス。ワープ」

「あぁ。空間魔法だよ」

「面白いねー」

面白くはないだろ。

ベリクリーデがいると、程よく緊張感が緩んで良いな。

この絶望的な状況じゃ、少しでも心を慰められるものは大変貴重である。

…とりあえず、当座の身の安全は確保出来たが。

それでも、問題は何も解決していない。

それに何より、俺はシルナのことが心配だった。

「…シルナ。大丈夫か?」

「え。何が…?」

とぼけんなよ。

大切な仲間に存在を忘れられて、それどころか敵意を向けられて、追われる身になって。

誰よりショックを受けているのは、シルナに違いない。

「相当堪えてるんじゃないかと思ってな」

「あぁ…うん、そうだね…。ショックだったけど…」

…けど?

「…でも、もしこのまま状況が変わらなかったとしても、それでも良いかもしれないと思ってる」

…何?

「皆が私のことを忘れても、羽久は覚えててくれるんだもん。羽久が一緒に居てくれるなら、私に恐ろしいものなんてないよ」

「…シルナ…」

「いっそこのまま別の世界に逃げて、そこで新しく、イチからやり直そうか?」

と、シルナは努めて明るい口調で提案した。

…そうだな。シルナと一緒なら、それも悪くないかもしれないな。

だけど、それは最終手段にするべきだ。

試せることを全部試して、万策尽きた状況に陥って始めて、逃避行を考えよう。

「…それも悪くないけど、でも、思い出してもらえる方法があるなら、そうしたいだろ?」

「…うん、そうだね」

「じゃあ、諦めるのはもう少し足搔いてからにしようぜ」

シルナと一緒なら、何処に逃げたとしても、そこは地獄ではない。

それは分かってるけど、あのイーニシュフェルト魔導学院が、俺達にとって一番心休まる居場所であることは変わらないのだから。

「そうと決まれば、記憶喪失の原因を探っ…」



「それは『ムシ』のせいですよ」



突然背後から聞こえた声に、俺は驚いて振り向いた。