どうやらその猫、マシュリに何か言いたいことがあるらしく。

マシュリを見上げて、にゃーにゃー鳴いていた。

俺には、ただにゃーにゃー言ってるようにしか聞こえないが。

「にゃー。にゃーにゃー」

「にゃにゃーん」

「にゃにゃにゃー。にゃー」

「にゃーん」

…。

マシュリはその白猫と、猫語で会話していた。

…通じてんの?それ。

…人間の姿でにゃーにゃー言ってるもんだから、一見クレイジーな人にしか見えん。

案の定、ベリクリーデはそんなマシュリを眺めながら呟いた。

「…ジュリス、あの人危ない」

「やめろ。あいつはあれが平常運転なんだ」

う、うん。

確かに危なそうに見えるけど、あれでマシュリは至って真面目だから。

黙って見守ってやってくれ。

しばらくにゃーにゃー語で喋っていたが、報告を終えた白猫は、またタタッと駆け出していった。

あ、行っちゃった…。

「マシュリ…。あの猫、何だって?」

俺にはさっぱり分からないが、きっと物凄く重要なことを、

「うん…。4丁目のペットショップで期間限定猫缶のセールをやってるって」

「そうか…。予想以上にどうでも良い内容で驚いてるよ…」

「それから、聖魔騎士団が逃げた僕らの捜索を始めたようだって」

「そうか…。一転して予想以上にヤバい内容で驚いてるよ…」

最初の報告との落差。落差が激しい。

…え?マジ?

「…本当なのか?」

「うん。ネコミュニティの情報だから間違いない」

間違いないって言われても、俺にはそのネコミュニティとやらの信憑性が分からなくてな。

だが、マシュリがそう言うってことは、事実なんだろう。

…猫缶の情報、要る?

「既に近隣のニャットワークで感知されてるってことは、相当近くまで迫ってるね」

「マジかよ…!」

思えば、聖魔騎士団には探索魔法のプロ、エリュティアがいるのだ。

エリュティアの手にかかれば、俺達の捜索など朝飯前。

見つかるのは時間の問題と言っても良い。

「…ジュリス、ニャットワークって何?」

「…その話は後だ。雰囲気で理解しろ」 

ごめんなベリクリーデ。俺も同じ疑問を抱いたけど、今はそれどころじゃない。

「この路地裏も安全じゃないかもね。逃げた方が良い」

「でも…何処に?正直、エリュティアに見つからずに済む場所なんて…」

「…少なくとも、このルーデュニア聖王国の何処にも、エリュティア君から隠れられる場所はないだろうね」

と、シルナ。

…うん。俺もそう思う。

逃げるなら、もっと遠くに逃げる必要がある。