その瞬間、俺は全てを思い出した。

長い夢から覚めるかのようだった。

目の前にいる女が誰なのか、すぐに分かった。

「…ベリクリーデ…?」

「…ジュリス…」

気がつくと、ベリクリーデが俺にしがみついて、ぽろぽろと涙を溢していた。

えっ、あっ…ご、ごめん。

「だ、大丈夫か?ごめん、俺…」

「ジュリスが私のこと忘れちゃった…」

「ま、待て。思い出した。思い出したから泣かないでくれ」

「黙れって。近寄るなって言った…」

俺に拒絶されたのが余程ショックだったのか、ベリクリーデはぽろぽろと涙を流していた。

やべぇ…。何処からどう見ても俺が悪者…。

でも、自分でも何が何だか分からないんだよ。

俺は、自分が記憶をなくしてる間のことを覚えていた。

何で俺、さっきまでベリクリーデのこと忘れてたんだ?

意味が分からない。

と、ともかく今は、ベリクリーデを泣き止ませるのが先だ。

目の前で泣かれたら、気まずいどころじゃない。

「ごめん、ベリクリーデ…。もう思い出したから。もう二度とお前を忘れたりしないから…」

ベリクリーデの背中を優しくポンポンと叩きながら、俺はそう繰り返した。

「もう大丈夫だ。だから…泣かないでくれよ」

「もう忘れない?…私に酷いこと言ったりしない?」

「しないしない。約束する」

「松ぼっくりで遊んでくれる?」

「そ、それはどうかな…」

「ふぇぇ」

あぁ、分かった分かった。ごめんって。

「分かった。松ぼっくりで遊んでやる」

「ほんと?」

「あぁ、本当だ」

「…うん…」

そこまで言って、ようやくベリクリーデは泣き止んでくれた。

…ホッ。

代わりに松ぼっくりで遊んでやる約束をしてしまったが、ベリクリーデに泣かれるよりマシ。

ベリクリーデを忘れる…なんて大罪をやらかした自分が悪い。

…けども。

自分でも、何でこんなことになったのかさっぱり分からないのだ。

「ベリクリーデ…。俺、何でお前のこと忘れてたのか分から、」

と、言いかけたその時。

床に、グロテスクなピンク色の何かが蠢いた。

「…っ!?」

俺は、思わず驚愕に目を見開いた。