「…」

俺は、目の前の女を不躾に、じろじろと見つめた。

…やっぱり間抜けそうな顔。

とてもじゃないが、悪いことを考えそうな…悪いことを考えられそうな顔には見えない。

だが、世の中の悪人ってのは大抵そういうもんだ。

「え?あの人がそんな悪いことを?」と言われるような人に限って、腹の中で悪どいことを考えてるんだよ。

目の前のこの女も、その類に違いない。

いかにも無害そうな顔をして、俺を罠に嵌めようとしているのだろう。

大体、聖魔騎士団の魔導隊舎に無断侵入している時点で有罪だ。

「あのねジュリス、一緒に松ぼっくりでフクロウつくっ、」

「黙れ」

無邪気に話しかける女に、俺は杖を構えて向かい合った。

もう油断しないぞ。

「…?」

「何が目的だ?誰の指示でここに来た?」

「目的…?だから、ジュリスと一緒に松ぼっくり、」

「黙れ。そんな戯言は聞いてない」

「…!」

そんなこと言われるなんて思ってもみなかった、って顔で。

その見知らぬ女は、きょとんとしていた。

…とぼけるのは上手いらしいな。

「そこを動くなよ。怪しい真似をしたらすぐ、」

「ジュリス…。ジュリスがおかしくなっちゃった」

は?

ぽろっ、と。

その女は、目尻から涙を溢した。

な…何だ?俺が泣かしたみたいじゃないか。

いや、俺が泣かしたんだけど。

演技か?俺の動揺を誘う為に演技をして、

「ジュリスが私に酷いこと言うなんて。ジュリスが私のこと…忘れちゃうなんて」

「え、えぇっと…?」

「そんなの…嫌だ」

そう、呟くなり。

涙を流したその女が、俺の目の前に迫ったかと思うと。

そのまま、ぎゅっと俺の身体を抱き締めた。

あまりに突然のことで、反応出来なかった。

「悪い虫が居るんだね。ジュリスの中に…。…お願い、ジュリスの中から出て行って」

「近寄るな!は、離せっ…!」

「返して。私の大好きなジュリスを」



その女…ベリクリーデから発せられた、聖なる白い光が。

「虫」に犯された俺の身体を、浄化した。