…かろうじて、下、着てて良かった。

いや、上ならセーフとかそういう問題じゃねぇから。

上でもアウトだよ。着替え中だぞ。

「だっ…なっ…何なんだお前は…!?」

急いで上着を羽織って、ひとまず見られちゃいけないところは隠し。

最高に慌てふためきながら、何とかそう尋ねた。

しかしその女は、着替え中の男の部屋に乱入したことに、全く何の恥じらいもなく。

「見て。松ぼっくり拾った」

と言って、手のひらサイズの松ぼっくりを見せてくれた。

…何故松ぼっくり?

…つーか、お前…誰?

俺の部隊の隊員じゃないよな?よその部隊…?

いや、でも上着に聖魔騎士団の記章をつけてない。

こいつ…一体何者だ?何処から入ってきた?

「…お前、何者だ?」

「ほぇ?」

ようやく冷静になった俺は、ベッドサイドに置いていた杖を手に取った。

何処の誰だか知らないが、聖魔騎士団魔導部隊の隊舎に忍び込み。

わざわざ、大隊長である俺の部屋を目指してやって来た。

何処から情報が漏れていたのか。

いずれにしても、全く物怖じすることなく、この部屋に勝手に踏み込んできたのだ。

「間抜けそうな顔してるが…お前、只者じゃないな?」

「…間抜けそう…」

…ちょっとショック受けてた。

だって、本当に間抜けそうだから。

「その手に持ってるものは何だ?」

その女は、両手の拳に何かを握っているようだった。

「ほぇ?松ぼっくり」

「そっちじゃない。反対の手」

「こっち?こっちはね、どんぐり」

どんぐりだと?

「しかも、傘付きのどんぐり」

ちょっと高級感を出してんじゃねぇ。

何でドヤ顔?

「今朝、庭を物色してたら見つけたんだ。ジュリスに見せてあげようと思って、持ってきた」

「物色…!?」

…何だ。空き巣か?

松ぼっくりとどんぐり目当てで空き巣する馬鹿が、この世の何処にいるんだ?

そこそこ長生きして、これまで色んな変わった奴らに出会ったことがあるが。

松ぼっくりを盗みに来る空き巣なんて、さすがの俺も見たことないぞ。

頭の中、大パニック。

「それ…本当に松ぼっくりか?」

「ふぇ?」

「まさか…松ぼっくり型の…手榴弾とか…」

「…しゅーりゅーだんって何?美味しいの?」

「いや、美味しくねぇけど…」

あと、しゅーりゅーだんじゃなくて。手榴弾な、手榴弾。

…何だろう。この、絶望的に会話が噛み合わない感じ。

もしかして…悪意があって忍び込んだ訳じゃないのか…?