――――――…侵入者達は、職員室の床に風穴を開けて逃げ去っていった。

…物凄く派手に破壊した割には、人的被害は全くない。

まるで、僕達を傷つける意志などないと証明するかのように。

「…大丈夫?ナジュ君」

「はい…」

天音さんが、僕を気遣って声をかけてくれた。

…ようやく気持ち、少し落ち着いてきた。

リリスのこと、誰にも話したことないのに。

彼らは一体、何でリリスのことを知っていたんだろう。

彼らに会った時、妙な胸騒ぎがしたのは何故だったんだろう…。

「駄目だ。逃げられたみたい」

「近くには見つからなかったよ」

逃げた侵入者達の追跡に当たったすぐりさんと令月さんが、風穴の開いた職員室に戻ってきた。

「捜索の範囲、広げようか?」

「学院の外に出ても良いなら、数時間もあれば見つけられるよ」

「そうですか。いえ、その必要はありません」

と、イレースさんが答えた。

「逃してもいーの?あんな、いかにも怪しそうな連中」

「構いません。たった今、聖魔騎士団から連絡がありました」

…聖魔騎士団?

「聖魔騎士団にも、今朝、身元不明の侵入者が現れたそうです」

「えっ…」

「更に、その侵入者が、聖魔騎士団魔導部隊大隊長の一人…ジュリスさんを連れ去ったという話です」

「えぇっ…」

…何だか、めちゃくちゃなことが起きてますね。

控え目に言って、一大事ですよ。

「聖魔騎士団にも侵入者が…?でも、何でジュリスさんを…?」

「さっき居たよね、ジュリスって人。敵に味方してたけど?」

「その通りです。何故、連れ去られたジュリスさんが敵側についていたのか…」

…その侵入者とやらに脅されていたのか、それとも洗脳でもされていたのか…。

あるいは、ジュリスさん本人の意志なのか。

「とにかく、そこのところを、これから聖魔騎士団の方々と協議します。逃げた犯人の捜索、追跡はその後です」

「ふーん。りょーかい」

「分かったよ」

と、元暗殺者二人は素直に頷いた。

…。

「…ナジュ君、大丈夫?何か気になることでもあるの?」

僕の様子がおかしいことに気づいたのか、天音さんがそう尋ねた。

「それとも、まだ具合が…」

「あ、いえ…そうではなく…」

…心に何か、引っかかるものがある…ような。

彼らが言った、読心魔法というのは何だったのか。

それに…彼らはこうも言った。

「自分達は敵じゃない。味方だ」と。

…あれはどういう意味だったんだろう。

彼らが、僕を惑わす為に嘘をついた…?

でも、あの目…。あの、必死に訴えかけるような真剣な目…。

…果たして彼らは、本当に僕達の敵なのだろうか?

何か大切なことを…忘れているような、気が、

「うっ…」

「な、ナジュ君!大丈夫?」

胸の奥、心臓がズキッ、と強く痛んだ。

「へ、平気です…」

「…休んでた方が良いよ。イレースさん、僕、ナジュ君を保健室に連れて行ってくる」

「分かりました」

そんな、大袈裟な…。と、思ったけど。

「さぁ、行こうナジュ君」

「…はい…」

有無を言わせぬ口調で、天音さんに促され、保健室に連れて行かれてしまった。

もやもやするものを、胸のうちに抱えながら。