言葉でいくら「俺達は潔白です」と訴えても、理解してもらうのは難しい。

だが、何の為に、先にナジュに会いに来たのか。

俺達が潔白であることを、言葉ではなく心で、理解してもらう為だ。

「ナジュ。お前なら分かるはずだ。俺とシルナが嘘をついてないってことが」

「…えーっと。新手の宗教勧誘ですか?」

宗教勧誘じゃねーよ。

「読心魔法を使ってみてくれ。俺達が嘘ついてないって分かるだろ?」

今こそ、お前の十八番魔法を使う時。

普段のナジュなら、息をするように俺の心を読み、

「…読心魔法?…何の話ですか?」

…えっ?

俺もシルナも、思わず目が点になった。

「突然職員室に忍び込んで、突然意味不明な話をして…。もしかして、ちょっと危ない方ですか?」 

「あ…危なくねぇよ!意味不明でもない。読心魔法だよ!お前のお得意の!」

「読心…魔法?そんな怪しい魔法が存在するんですか…?」

…嘘だろ。

これは、俺もシルナも予想外だった。

ナジュと言えば読心魔法、読心魔法と言えばナジュってくらい、常日頃から読心魔法を濫用していたのに。

「ナジュから読心魔法を取ったら…何が残るんだ…!?」

「…初対面の相手に、随分酷いこと言われてる気がしますね」

だって。もう不死身しか残らないじゃないか。

「羽久。ナジュ君は読心魔法以外にも、風魔法とか得意だから」

と、横からシルナがフォローを入れてくれた。

そうだった。風魔法の授業担当はお前だったな。ごめん。

でも、風魔法を使う頻度と読心魔法を使う頻度、どちらが多いかなんて言うまでもない。

アテが外れた。

読心魔法を使えば、俺達の潔白を証明出来ると踏んで、ナジュに会いに来たのに。

なんとナジュは、俺達の記憶を失っただけではなく。

自分が読心魔法の使い手であるという記憶まで失っている。

…嘘だろ。そんなことある?

まるで、俺達を思い出す「都合の悪い」魔法は、使えないようになってるのか?

そんな、まさか…!

「そうだ、リリス…!お前の中にいるリリスなら、俺達のことを覚えてるんじゃないか!?」

そう思い当たって、俺はナジュに迫るようにして詰問した。

半分魔物の血が入っているマシュリは、このおかしな記憶喪失に陥っていなかった。 

ナジュは記憶を失ってても、ナジュの中にいるリリスは無事なのでは?

記憶をなくしている以上、俺やシルナが何を言っても無駄だが。

リリスの言葉なら、ナジュは信じるはずだ。

リリスに説得してもらえば、まだ何とか、

…しかし。

「…!…あなた、何で…リリスのこと、知ってるんですか?」

…ナジュは愕然として、震える声で聞き返してきた。

…え?