マシュリに周囲を見張ってもらって、俺とシルナで職員室の窓ににじり寄った。

…やっぱり、突然窓から入ってきたらびっくりするよな?

外から窓をコンコンとノックして、中にいるナジュに気づいてもらおう。

…と、思ったのだが。

「…あっ…」

「…」

こちらが窓をノックしようとしたその時、丁度、窓を開けようと窓辺に寄ってきたナジュとご対面。

窓ガラス越しの再会。

…出来れば、もう少しマシな出会い方をしたかったもんだ。

これじゃあ、完全に不審者じゃないか。

「あっ、え、えぇとっ…。な、ナジュ君…」

「…」

「…や、やっほー」

…出てきた言葉は、それかよ。

努めて親しげに話しかけるシルナを、ナジュは怪しいものを見るかのような目で見つめ、

「…白昼堂々、空き巣ですか?」

と、尋ねた。

この反応…。

「確かにここは歴史のある学校ですが、あなた方が望むような金目のものはありませんよ」

知ってる。自分の学校だから。

「ち、違うよナジュ君。私達、空き巣に来たんじゃなくて」

「僕の名前知ってるんですか?空き巣じゃなくて、怨恨殺人か何かですか?」

「ち、ちがっ…」

…やっぱり、この反応。

ナジュも、俺とシルナのことを覚えてない。

もしかしたらナジュと天音は、と期待していただけに、ショックが大きいが。

でも、ショックなんか受けてる場合じゃない。

最悪、そこも想定内だ。

「ナジュ。俺達は空き巣でも強盗でも、殺人犯でもない」

「不法侵入者ではありますけどね」

それも誤解なんだって。

「今朝、学院に猫と不審な男が二人、我が物顔で忍び込んできたと聞きました。もしかして、あなた方のことですか?」

猫と、不審な男が二人…

マシュリと、俺とシルナのことか?

心外だよ。そんな物言いをされるとは。

いつも通り自分の家で目を覚ましただけなのに、何で一晩で不審者扱いされなきゃいけないんだ。

だが、頭に血を上らせてはいけない。

ここは冷静に、努めて冷静に話し合わなければ。

大丈夫、ナジュは話の通じる奴だ。

「良いか、よく聞いてくれ。不審者のように見えるかもしれないが、俺達はお前の仲間だ。味方なんだ」

「…」

ナジュは胡散臭そうに、じーっとこちらを見つめていた。

…そりゃまぁ、そうだよな。

記憶がないなら、そうなるのは当然だ。

俺だって、突然学院に知らない猫と男が現れて、「自分は君達の味方なんだ」と主張されても。

「何言ってんだお前?」って言うに決まってるからな。

でも本当のことだから。どうか信じて欲しい。