…話はまとまった。

俺とシルナ、それからマシュリの三人は、イーニシュフェルト魔導学院に戻ることにした。

…とは言っても、真正面から入れば、またしても不法侵入者として捕らえられてしまう。

俺達の目的は、あくまでナジュと天音に接触すること。

これだけだ。

生徒や、教員達とも争うことなんて望んでない。

ましてや、朝っぱらから生徒達の目の前で、教師同士の争いを見せてしまったのだ。

これ以上、何の罪もない生徒達を怯えさせたくはなかった。

そこで。

「…気をつけてね。音を立てないように」

「あぁ」

「猫仲間に見張ってもらってるから、今のうちに」

俺達は、人目を忍んで、こっそり学院の裏門から忍び込むことにした。

まさか、自分の学院に帰る為に、こんな方法で入らなきゃいけないとはな。

まるでこそ泥みたいじゃないか。

自分の家のはずなのに。

俺でさえ耐えられない思いなのに、学院長であるシルナの思いは如何ばかりか。

…だが、弱音を吐いている暇はなかった。

音を立てないよう、俺達はこっそり学院の敷地内に侵入した。

俺もマシュリみたいに、気配を消せたら良かったんだけどな。

イレースはともかく、元暗殺者の令月とすぐりは、僅かな足音や衣擦れの音でさえ反応する。

あの二人に補足されたら、その時点で終わりだ。

味方の時は、頼もしいことこの上ないが。

その分、敵に回ると、今度は恐ろしいことこの上ない。

「いざとなったら僕が囮になるから、急いで」

「ふざけんな、マシュリ。捕まるなら全員一緒だ」

俺に、マシュリを置き去りにして逃げろと?

冗談じゃないぞ。

「それより、天音とナジュは…?マシュリ、気配を辿れるか?」

「ちょっと待って。匂いを辿る」

ありがとう。

マシュリが居てくれて助かった。

…しかし。

「…二階…?いや、一階…。…あぁ、違う匂いが強くて辿れない」

え?

マシュリは険しい顔で、ブツブツつぶやいていた。

…違う匂い?

「大丈夫か?マシュリ…」

「大丈夫…。…うん、大体分かった」

…本当に大丈夫なのか?

「天音とナジュは?何処にいる?」

「天音は保健室にいる。ナジュは…多分職員室だね」

成程。まぁ、予想通りだな。

「念の為に聞いとくが…イレースと、暗殺者二人は何処にいるか分かるか?」

「匂いがバラバラだから、多分それぞれの教室にいるね」

そうか。授業中だもんな。

でも、助かった。それぞれバラバラの場所に居るなら、見つかる危険性も低くなる。