もし、天音かナジュのどちらか、あるいはいずれも、俺達のことを覚えていてくれたら。

記憶をなくしたイレースと令月、すぐりに、証言してくれるかもしれない。

俺とシルナが敵じゃないってことを。

「マシュリ、お前も、今朝から天音とナジュには会ってないんだよな?」

「うん、見てないね」

よし。

じゃ、まだ望みはある。

「もし二人の記憶が消えてなくて、イレースちゃん達と鉢合わせしてしまったら…私達と同じように、イレースちゃんと戦いになってるかもしれない」

確かに。

不審者二人目現るとばかりに、イレースの雷魔法の洗礼を受けている可能性がある。

「だったら、すぐに助けに行かないと…!」

今頃ナジュも天音も、黒焦げになっている可能性がある。

ナジュは黒焦げになっても死なないが、天音はそうは行かない。

すぐに助けに行かなければ。

…しかし。

「それは浅はかなんじゃないかな」

マシュリが、すぐにでも駆け出そうとする俺を止めに入った。

何?

「もし、ナジュも天音も、イレースと同じように記憶を失ってたら?今僕らが学院に戻ったら、もう一回捕まえてくれと言ってるようなものだよ」

「…!それは…」

…考えたくない。ナジュも、天音までも、俺とシルナのことを…マシュリのことを忘れてるなんて。

だけど…その可能性は、勿論ある。

何せ記憶喪失の条件も原因も分からないのだから。如何なる可能性だって考えられる訳だ。

…でも…その危険を踏まえても、俺は…。

「助けに戻ろう。ナジュ君と天音君を」

意を決したように、シルナが言った。

「本気なの?助けるどころか、こっちが捕まりかねないのに」

「危険なのは分かってるよ。でも、私達は仲間を見捨てない。何があっても。例え彼らが私達のことを忘れていても」

…シルナ…。

…そうだな。俺達はいつも、そうやってきた。
 
「…そういえばそうだったね。君達は、死んだ仲間の為に冥界にまで入り込むような人だった」

その通りだ、マシュリ。よく覚えてるな。

「分かった。それなら止めないよ」

「ありがとう。…羽久、君もそれで良いよね?」

「愚問だ」

仲間を助けに行く為なら、ちょっとやそっとの危険が何だと言うんだ。

リスクを恐れて躊躇って、その結果仲間の命が脅かされることになったら、その方がずっと悪い。