「よし…。それじゃ、何とかしてイレース達の記憶を取り戻す為の作戦を考えよう」

「ちょっと待って。その前に」

ん?

マシュリが、俺の言葉を遮った。

「どうしたんだ、マシュリ…」

「猫仲間に、偵察を頼んでくる」

…猫仲間?

「それから、聞き込みも。昨日の夜から今朝にかけて、学院の周りで何か変わったことがなかったが、猫仲間に聞いてくるよ」

「…そんなことが出来るのか?お前」

「猫だからね」

…お前はマシュリだろ?

「少し待ってて。行ってくる」

マシュリは猫の姿に『変化』して、しゅたたっ、と走っていってしまった。

…行っちゃった。

「…追いかけなくて大丈夫か?」

「マシュリ君、足速いから…追いかけても撒かれると思うけど…」

「だよな…」

今、離れ離れにならない方が良いと思うのだが…。

…仕方ない。マシュリが偵察?聞き込み?に行ってくれている間…。

…何かするか。俺達も。

「ちょっと出て、少しだけ街の様子を見に行ってみないか?」

「大丈夫かな…?」

「危なそうだったら、すぐ隠れよう」

マシュリが行ってくれてるのに、俺とシルナだけ、路地裏に潜んで待っている訳にはいかないだろ。

目立たないように、街の様子を見に行ってみよう。

俺はシルナと共に、そっと、まるで身を隠す逃亡者のように路地裏を抜け。

街の様子を見に行った。

通勤、通学の時間なだけあって、人通りが多い。

しまった。こんなに人が多いとは。やっぱり隠れてるべきだったか?

マシュリが生徒達に悲鳴をあげられたように、街の人も俺とシルナを見て、恐怖の叫びをあげたらどうしよう、と思ったが。

そんなことはなく。

街行く人々は、俺とシルナの姿を見つけても、特に驚くことも声を上げることもなかった。

ただ街の風景の一部分のように、まるで俺達を気に留める者はいない。

…どうやら、お尋ね者って訳じゃなさそうだな。

それは、ちょっと安心した。

街を歩いているだけで咎められたら、うっかり姿を現すことも出来ない。

変装しなきゃいけないところだった。

「…特に普段と変わらないな…」

「そのようだね…」

俺達のことなんて誰にも気に留めず、人々の日常はいつも通り進んでいる。

良いことなんだろうが、俺としては、自分だけ置いていかれたようで虚しくなる。

俺だって、今日もいつもと変わらない一日が始まるはずだったのに。

何故か一晩にして、仲間に存在を忘れられていた。

…こんな酷い話があるかよ?