…分かった。シルナがそうするなら、俺も冷静になるよ。

「…シルナ。一体何が起きたんだと思う?」

これが夢じゃないなら、何かの天変地異じゃないなら、何か理由があるはずだ。

イレース達がああなってしまった理由が。

しかし。

「…分からない。ただ、何らかの原因があって記憶を失ってしまったとしか…」

「…やっぱり、記憶喪失なのか?」

「あの反応を見る限り、そうなんじゃないかな…」

…だよな。

マシュリ(いろり)のことも、俺のこともシルナのことも、まるで敵を見るような目で睨んでいた。

仲間に対する態度ではない。

俺達に関する記憶を失ってしまったのなら、あの他人行儀な態度にも説明がつく。

問題は、その記憶喪失の原因だ。

「一晩にして、記憶がなくなるなんてことがあるのか?」

しかも、イレース達だけじゃない。全校生徒まとめて、全員。

自然に記憶がなくなるなんて有り得ない。明らかに、誰かの悪意によって、記憶を改竄された。

イレース達から記憶を奪った、誰かがいるのだ。

一体、何処の誰がそんな趣味の悪いことを…。

「私は、記憶がなくなった原因よりも、何で私達だけは大丈夫なのかが気になるよ」

と、シルナが言った。

…え?

「私と羽久だけなら、まだ分かるよ。敵が多いからね、私達は…。でも、何でマシュリ君は大丈夫なんだろう?」

「…言われてみれば…」

マシュリは魔物だから?記憶の改竄が通じなかった、とか?

じゃあ、何で人間である俺とシルナも無事なんだ?

「イーニシュフェルト魔導学院の仲間達の記憶を改竄して、洗脳して、私達の敵にする…。それが目的なのだとしたら、マシュリ君も記憶を失ってなきゃおかしいよね」

「…マシュリ、お前は記憶、大丈夫なのか?」

「少なくとも、君達のことは忘れてないよ。イレースや令月のこともね」

…だって。

マシュリは忘れてない…のに、イレースや令月、すぐりは忘れてる…。

…何で?

頭の中が疑問符でいっぱいである。

誰か、この状況について説明してくれ。

ともかく、俺達が今やらなければならないことははっきりしている。

「あいつらに、俺らが敵じゃないってことを分かってもらわないと。それから、奪われた記憶を取り戻そう」

それで全部解決。

俺達が仲間なんだってことを、思い出してもらうのだ。

「口で言うほど簡単なことじゃないと思うけど」

と、厳しい表情のマシュリ。

…分かってるよ。

「でも、俺はこのままなんて絶対嫌だ。俺達は仲間なんだから」

何処の誰か分からない犯人に、勝手に記憶を弄られ。

永遠に仲違いしたままなんて、絶対に嫌だ。

思い出してもらう。そして、また皆でイーニシュフェルト魔導学院に帰るのだ。

シルナの学院なのに、シルナが追い出されるってどういうことだよ。

「シルナ、お前も同じ思いだろ?」

「…そうだね。あの場所は、私達の帰るべき『家』だから。『家』と『家族』を奪われるのは嫌だね」

その通りだ。

「…マシュリ、お前も協力してくれないか?」

何でマシュリだけは大丈夫なのか分からないが、この際、理由なんて何でも良い。

マシュリも手伝ってくれたら、心強い。

「構わないよ。心臓を取り戻してもらったあの時から、僕の意志は君達と共にある」

「…ありがとう」

それじゃ、早速。

…作戦会議、と行こうか。