「ど、ど、どういうこと?何の科目も何も、私、学院ちょ、」

と、言いかけたシルナの言葉は、次の瞬間に凍りついた。

「ぎゅえっ…!?」 

「…っ!?」

突然両腕を締め上げられて、シルナは奇怪な声をあげた。

かく言う俺も、同時に後ろ手に縛り上げられて、驚きのあまり抵抗も出来なかった。

太いロープとかじゃなくて、俺とシルナの腕を縛り上げているのは、裁縫糸みたいに細く、それでいて恐ろしく強靭で、透明な糸。

こんな細くて強靭な糸を扱える者を、俺は一人しか知らない。

「す…すぐり…!?」

「あれ。俺のこと知ってるの?」

すぐりは怪訝そうな顔をして、俺とシルナを睨んでいた。

な、何言ってるんだ?

「いきなりどうしたんだよ。この糸、ほどき…」

「動かないで」

次は、糸どころではない。

令月の右手の小太刀が俺に、左手の小太刀がシルナに、それぞれ喉元に這わせられた。

うっかり半歩でも動こうものなら、喉元の皮膚がすっぱりと切れてしまうことだろう。

…ひぇっ…。

「な、何なんだ…?」

令月もすぐりも、冗談でこんなことをする奴らではない。

二人の目は、暗殺者がターゲットを見る時のそれだった。

お、俺達が何をしたって言うんだ?

困惑しているところに、願ってもない見知った顔が現れた。

「…あなた達…」

「あ、イレース…」

良いところに。

何とかしてくれ。身に覚えのない容疑で、元暗殺者二人に命を狙われている。

「丁度良かった、助け、」

「白昼堂々、この学院に忍び込むとは。良い度胸ですね」

…え?

イレースは、片手に雷を迸らせる杖を握っていた。

え、う、嘘だろ?

「度胸だけは褒めてあげますが、不法侵入は断じて許せることではありません」

「えっ?え?ふ、不法侵入って何?」

「とぼけますか。今朝から学院内で不審な猫の目撃情報が寄せられていますが、あれもあなた方が持ち込んだものですか?」

えっ?猫?

…それはいろり…マシュリじゃね?

「学校に猫を放すなど言語道断。…覚悟してもらいましょうか」

イレースの杖が、バチバチと火花を散らす。

や、やべぇ。脅しじゃない。本気だ。

すぐりの糸に拘束され、令月の小太刀を突きつけられ、挙げ句イレースの雷魔法なんか食らったら、さすがの俺とシルナも死んでしまう。

い、一体何が起きてるのか全く分からない。

誰か説明してくれ。何がどうなってるんだ?