学院長室で二人、黙々とチョコレート菓子を袋詰めする。

二人でやれば作業効率は2倍。あっという間に、生徒全員に配るチョコレートの用意が出来た。

「よーし、出来た!あとは、これを食堂に持っていって配るだけだね!」

達成感でいっぱいのシルナ。

はいはい、良かったな。

…で、

「…何の為のチョコなんだ?」

「ほぇ?」

ほぇ、じゃなくて。

「ハロウィンでも休み明けでもないのに、何であんなにチョコを用意してたんだよ?」

それをずっと聞きたかったんだよ。とりあえず作業が終わってから、と思って。

「あぁ、これ?これはね…生徒に、少しでも元気を出してもらおうと思って」

…元気?

「ここ最近、生徒達の表情が暗いでしょ?羽久もそう思わない?」

「表情が暗い…?…まぁ…」

…そうだっけ。

そう言われたら、確かにそんな気がする…。

学院長として、生徒の表情の変化を見逃さないシルナが言うのだから、間違いないだろう。

「そうかもな…」

「でしょ?だから、元気出してもらおうと思って。一肌脱いでみたんだ」

ふーん。その気持ちは分かるけど。

チョコ菓子くらいで、生徒達の元気が出ると思ったら大きな間違いだぞ。

誰もがお前みたいに、チョコレートでエネルギー補給してる訳じゃないから。

しかし、シルナは。

「甘くて美味しいチョコを食べたら、きっと皆、元気を出してくれるはずだよ。チョコレートは幸せの魔法だからね!」

持論である、チョコレート万能説を披露。

今度お前が落ち込んでたら、チョコ菓子を袋詰めして渡してやるよ。

「しかし、何で生徒達の表情が暗いんだ?何かあったっけ…」

筆記試験の時期でもないし、実技試験もまだ先…。

「ほら、この間イレースちゃんが、リューイ君の手を借りて、抜き打ち試験を作ってたでしょ?」

と、シルナが説明してくれた。

あっ…。成程、原因はそれか。

「本当に、全く予告なしの抜き打ちテストだったみたいで…。しかも、その試験問題が、いつもの小テストの比じゃないくらい難しかったらしくて…」

「マジで…?そんなに?」

「うん。平均点はどの科目も50点を切ってるって話…」

「…そりゃまた、辛口だな…」

優秀なイーニシュフェルト魔導学院の生徒達が、平均点50点も取れないとは。

それは生徒達が怠惰だからではなく、単純に問題が難し過ぎる&採点が辛口過ぎる。

しかし、イレースはそんな試験問題の難しさなど、考慮に入れてはくれまい。

平均点の低さを、生徒達にこんこんと説教したに違いない。

「生徒達は可哀想に。たるんでるとか怠けてるとか散々怒られて、酷い目に遭ったって…」

「そうか…。だろうな…」

「そのせいで、最近生徒達の元気がないんだよ」

「そうか…。だろうな…」

大人である俺やシルナだって、イレースに叱られるとめちゃくちゃへこむのに。

思春期の生徒達にとっては、非常に堪えたに違いない。