――――――…ここ数日、イーニシュフェルト魔導学院の生徒達の間には、非常に憂鬱な雰囲気が広がっている。

突然どうした、と思われるかもしれないが、無理もない。

その原因は言わずもがな。

ちなみに、生徒達が揃って落ち込む中、原因を作った張本人だけは、いたくご満悦である。

と、いうのも…。





「せっせ…。せっせ…」

「…何やってんだ、シルナ」

「あっ、羽久…良いところに」

俺が学院長室を訪ねると、シルナは何やら、忙しそうに作業していた。

大抵俺が学院長室に来ると、いつも呑気な顔して、暇そうにチョコレートを摘んでるだけなのにな。

真面目に仕事をしているとは、珍しい。

まぁ、たまには真面目に仕事してくれないとな。学院長クビになるぞ。

「珍しいこともあるもんだな。お前がまともに仕事を、」

「…?どうしたの、羽久?」 

忙しそうに手元を動かしてるから、てっきり仕事してるもんだと思ったが。

よくよくシルナの手元を見てみると、それは断じて学院長としての仕事ではなく。

ただの、チョコレートの袋詰め作業中だった。

…ふーん。

ごめん、さっきの言葉は撤回するよ。

仕事しろ。

「羽久が、私に失礼なこと考えてる気がする…!」

「そんなことより、お前、それ何やってるんだ?」

シルナの傍らには巨大な段ボール箱が置いてあって、そこに既に袋詰めされたチョコレート菓子が大量に入っていた。

それ、今日一日かけてやってたのか?

時間の無駄遣い。イレースに怒られてしまえ。

「これ?生徒に配るチョコレート、分けてるんだよ」

何故かドヤ顔。

見たら分かるよ。シルナがこのように、お菓子を小分けにして袋詰めするのは、今に始まったことじゃない。

年に何回かやってる。ハロウィンの時とか、オープンスクールの時、夏休み明けとか。

生徒に配布する為に、こうしてせっせとチョコレートを袋詰めしている。

しかし…。

「何で今…?」

今はハロウィンでもないし、オープンスクールでもないし、夏休み明けでもないぞ。

シルナがチョコを袋詰めする時期じゃないはずなのだが…。

…何かあったっけ?

「丁度良かったよ、羽久」

「は?」

「手伝って」

…何で?

「今日の夕食の時間に、生徒皆に配るつもりなんだ。このままじゃ終わらないから、手を貸して欲しいんだ」

「…」

「ねっ、お願い。勿論羽久の分もあげるから!ほら」

と言って、シルナは小分けされたチョコレートお菓子袋を俺に差し出した。

別に要らないんだけど。

こんなことを手伝わされる義理はないので、このまま回れ右して学院長室から出ていってやろうかと思ったが。

…このタイミングで、学院長室に入ってきてしまった俺の運の尽きである。

「…分かったよ…」

「ありがとう、羽久!」

俺は、シルナのチョコ袋詰め作業を手伝う羽目になった。