…それどころか。

「私のことを信用出来ない、と訴える時魔導師殿を宥め、私を庇おうとしていました。私と…智天使様のことを」

「私も…?」

「はい」

私が、「智天使様は手荒な手段を望んでいない」と話したのを、あっさりと信じているのだ。

確かに、その言葉に嘘はない。

けれど、そう簡単に信じてもらえるとは思っていなかった。

「聖賢者殿だけではありません。彼の仲間達も…」

時魔導師殿だけは、未だに私を信用していなかったが。

それが当然のことなのだ。私と智天使様が、彼らの仲間である神竜殿にしたことを思えば。

それなのに、私に気を許していないのは、その時魔導師殿だけ。

他の仲間達は、馬鹿正直に私を信用していた。

少なくとも、私を露骨に遠ざけるような真似はしなかった。

間違いなく私と智天使様を恨んでいるに違いない、神竜殿でさえも。

「聖賢者殿が信じると決めたなら、自分達も信じる、と言わんばかりに…」

「…そうですか。…それだけ信用されているのでしょうね。シルナ・エインリーは」

そういうことなのだろう。

大体、聖賢者殿の周りにいる仲間達の経歴だって。

「これをご覧下さい」

私は、何もない空間から一冊の本を取り出した。

その本には、私が調べた聖賢者殿の仲間達の経歴が記されている。

年齢、性別、人種に差こそあれ、あれほど聖賢者殿に対する信頼が厚いのだ。

きっと、酷く困窮していたところを聖賢者殿に救われ。

その救ってもらった恩に報いる為に、神に反旗を翻してでも聖賢者殿に協力しているのだろう。

…と、思っていたのだが。

こうして蓋を開けてみれば、確かにそのような経緯で仲間になった者もいるが…。

「元魔導師排斥論者だった者、魔物と融合して不死身になった読心魔導師、その読心魔導師に復讐する為に、ルーデュニア聖王国にやって来た回復魔導師。ジャマ王国の暗殺組織『アメノミコト』所属の暗殺者だった者…」

そして、ケルベロスと人間のハーフであり、神竜族バハムートの血を引く神竜殿。

経歴は様々だが、元々聖賢者殿とと敵対する立場だった者が多い。

特に『アメノミコト』の暗殺者殿なんて、聖賢者殿の命を狙って学院にやって来たのに。

一体何がどうなって、いつの間にか学院の生徒に収まっているのか。

「上位天使様方が仰っていたように、聖賢者殿が悪知恵を働かせて、自分の手駒にする為に、言葉巧みに懐柔したのかと思いましたが…」

この本の記録を見る限り、そのような事実はない。

いずれも、聖賢者殿が「その者を救いたい」という思いから、彼らを助け。

仲間達は誰も、そんな聖賢者殿の人柄に惹かれて、自分の意志であの学院にいる。

…要するに、あの聖賢者殿という人は。

「とんでもないお人好し、ということですね」

神に反旗を翻し、裏切り者と呼ばれた男が、ただのお人好しとは。

一体私達は、誰を目の仇にしていたんでしょうね。