…小一時間後。

「大丈夫ですか?智天使様」

「うぅ…。口の中に、まだマタタビの味が…」

青ざめていらっしゃる。

どうやら智天使様には、猫用ちゅちゅ〜るプレミアムマタタビ味は合わなかったようだ。

残念です。

「あの…ちなみに、リューイ」

「はい」

「リューイは、この猫のおやつ…食べたんですか?」

「いいえ?人間の食べ物ならともかく、さすがに猫の食べ物は気持ち悪かったので」

「…リューイ。私、あなたのそういうところは、ちょっと嫌いです…」

えっ。

「そ、それはともかく…。肝心の話をしましょう」

と言って、智天使様は咳払いをして、話を本題に戻した。

「リューイ。聞いても良いですか?」

「何なりと」

「…あなたから見て、シルナ・エインリーはどんな方でしたか?」

…どんな方…か。

一言で説明するのは難しいが…。

私はしばし考え、そして口を開いた。

「…拍子抜けさせられる人でした」

「えっ」

裏切り者の聖賢者として、上位天使様達が蛇蝎の如く憎んでいる相手なのだ。

自分の部下を手駒のように扱い、禁忌の魔法の為に人体実験を繰り返し。

傲慢で残酷で利己的で、同情の余地もない悪魔のような存在に違いない…。

…と、勝手に想像していたのに。

蓋を開けてみれば、出てきたのはただの、普通の人だった。

「魔導師なのに甘いものが…特にチョコレートが好きで…。毎日、狂ったようにチョコレートばかり口にしていて…」

「そんなに…?」

「チョコクッキーとチョコケーキとチョコマカロンを食べながら、ホットチョコレートを飲むような人です」

「そ、それは凄いですね…」

アルコール中毒ならぬ、チョコレート中毒なのかもしれない。

「ですが、私が本当に拍子抜けしたのは、無類のチョコレート好きという点ではなく」

「はい」

「…そのチョコレートを、自分だけで独り占めするのではなく、必ず仲間と一緒に食べようとするところです」

極悪な神の裏切り者というくらいなのだから。

自分の好きなもの、自分の欲しいものは全部、自分一人だけで独り占めして。

決して他の人間には渡さない、くらいの傲慢さは、当然あるものだと思っていたのに。

それがどうだ。

私がケーキをプレゼントするなり、「やったーありがとう!皆で食べるね!」と、当たり前のように言い。

皆って誰のことなんだろうと思っていたら、いつも一緒にいる教師仲間にケーキを分け。

それどころか、通りすがりの生徒を捕まえ、半ば強制的に、ケーキを押し付け、いや、一緒に食べていた。

何なら、敵であるはずの私にまで勧めてくる始末。

一人で食べても美味しくない、と言わんばかり。

しかも。

「自分のもとを訪ねてきた生徒に、菓子を分け与え…手取り足取り、丁寧に勉強を教え…励まし…」

「…」

「とにかく仲間思いで…。そして、何故か…同じくらい、私にも優しい」

仲間に優しいのは分かる。まだ理解出来る。

自分の懐に入った人間に対しては優しいのたろう。

でも、何故その優しさを、私にまで向ける?

それが一番信じられなかった。