「それは、勿論分かってるけど…」

けど、何だよ?

「でも、それはリューイ君がやったことじゃないでしょ?」

その通りだ。

正しくはあいつの主。智天使様だっけ?そいつの犯行である。

「あいつ自身が言ってただろ。ご主人様の意志は自分の意志だって。だったらリューイが殺したようなもんだ」

「そうかなぁ…。でもリューイ君のご主人様だって、本当は乱暴なことしたくなかったけど、他の天使に押し切られただけだって…」

「信じてるのか?そんなこと」

リューイが嘘をついていない保証なんて、何処にもないんだぞ。

本当はその智天使様が、誰よりもマシュリ殺害に積極的だったのかもしれない。

「それに、本当にリューイ君が悪意を持って私達に近づいたのだとしたら、とっくに行動に移してると思うけど」

…う。

それを言われると…俺も、あまり強く出られない。

そうだよな…。俺はともかく、シルナや他の教師陣は、すっかりリューイに気を許してるし…。

後ろから襲いかかろうと思ったら、いつでもそのチャンスはあったはず。

それなのにリューイは、未だに俺達を襲ってくる様子がない。

だから、逆に不気味なんだよな…。

「いや、でもそれも策のうちなのかも…。完全に油断させてから、一気にグサッと…」

「羽久は心配性だなぁ…。そんなに心配しなくても…」

するに決まってるだろ。

「それにね、羽久。私、リューイ君は私達を油断させておいて襲いかかってくる、ってことはしないと思ってるんだ」

「だから、何でそんな簡単に信じられるんだよ?」

「それは、彼らが天使だからだよ」

…は?

「元イーニシュフェルトの里の賢者達と同じ。彼らには、自分が聖神ルデスに選ばれた天使であるという強い自尊心がある」

そう言われて、納得した。

そうか。我こそは神に選ばれし天使、というプライド。

奴らの言う、裏切り者であるシルナを始末する為に、懐柔して油断させて、背後から襲う…なんて。

そんな姑息な手段、プライドの高い天使様には出来ないだろう。

やるなら正面からぶつかって、直接捻り潰しに来るはず。

成程…。今のところ、その意見が一番しっくり来るな…。

「確かに、そうかもしれない…とは思うけど、それだって俺達の勝手な推測であって、絶対そうだっていう保証はないぞ」

「わ、分かってるよ…」

シルナと正面からやり合うのは大変だから、やっぱり油断させて後ろから刺そう。

と、合理的な判断をする天使がいても、全然おかしくない。

信じて裏切られて、馬鹿を見るのは俺達の方なんだぞ。

「大体、観察する為に来たっていうのが胡散臭いんだよ。何だよ観察って?観察してどうするつもりだ?」

「さ、さぁ…。それは分からないけど…」

「…やっぱり信じられない」

観察した結果、改めてもう一回マシュリを殺すことにしました、なんて。

突然言い始めたらどうするつもりだ?

楽観的なシルナ達に警戒を促す為にも、やはり俺だけは、決してあのリューイという天使に気を許してはいけない。

再度、俺は強くそう心に決めた。