…それから、3時間ほど経った後。

「はぁ〜。今日も一日のお仕事が終わったね。仕事終わりの一杯…最高だね」

シルナは、しみじみとマグカップを傾けていた。

一般的に言う「仕事終わりの一杯」とは、アルコール類のことを指すが。

シルナの「仕事終わりの一杯」は、勿論、あっつあつのホットチョコレートである。

欲張りにマシュマロを三つも乗せて、スプーンで混ぜながら飲んでいた。

何処の世界に、仕事終わりの一杯にホットチョコレートを飲む奴がいるんだよ。

しかも、ついさっきまでホワイトチョコレアチーズケーキを食べたばっかりだっていうのに。

更に、今こうやって、甘々のホットチョコレートを飲んでいる。

想像しただけで、口の中が甘ったるくなってきた。

まぁ、シルナって下戸だから。仕方ないっちゃ仕方ない。

かく言う俺も、アルコール類はあまり得意ではない。

「羽久も一緒に、ホットチョコレート飲む?」

「要らねぇ。…そんなことより」

「?そんなことより?」

「…今のところ、体調に変化はなさそうだな…」

言うまでもなく、さっき食べたホワイトチョコレアチーズケーキのことだ。

遅効性の毒だったら、そろそろ効果が現れるんじゃないかと思って。

今のところ、俺もシルナも何の変化もない。

「何で?あのケーキに何か仕込まれてたんじゃないかって思ってたの?」

「当たり前だろ」

「まさかぁ。リューイ君はそんなことしないよ」

…根拠のない楽観視。

「何で、そう言い切れるんだよ?」

「だって、チョコスフレケーキや、チョコレアチーズケーキを差し入れしてくれるんだよ?悪い人のはずが、」

ふーん。

「…シルナ。俺は真剣に話してるんだけどな?」

「ちょ、落ち着いて羽久。分かったから。その振り上げたスプーンを下ろして!」

おっと、悪いな。

これでシルナの額をぶん殴ってやろうかと思ったよ。

「羽久、まだリューイ君のこと疑ってるの?」

「当たり前だろ」

むしろ、何で皆あんなに無警戒なんだよ。

「そっか…。良い人だと思うけどな、リューイ君…」

「…俺の場合は『前の』の影響で、どうしても、お前に近づく奴には過敏に反応してしまうからな」

「あ、そうか…。うーん。二十音も心配性だもんね…」

心配性って言うか、お前に変な虫がつくことを警戒してるだけだろうが。

ともかく、俺の中にいる「前の」俺の強い警戒心も相まって、どうしても安心出来ない。

「でも、リューイ君は大丈夫だと思うよ。本当に」

…また、あいつを庇う。

「だから、何でそう言い切れるんだよ?…ケーキをくれたから、っていうのは理由にならないからな」

「わ、分かってるよ…」

「お前、あいつがマシュリに何をしたか忘れたのか?」

マシュリ本人でさえ忘れているようだから、もう一度教えてやるよ。

あいつは、マシュリが裏切り者…シルナの仲間だということを知って、マシュリを殺そうとしたんだぞ。

断じて許せることではないだろう。…例えマシュリ本人が許したとしても。