いや待て。そうだ、イレースだ。イレースがいる。

あいつは、ケーキやちゅちゅ〜るくらいじゃ懐柔されないぞ。

イレースを呼んでこよう、と立ち上がりかけたその時。

「失礼しますよ」

「あ、イレース…良いところに」

呼びに行くまでもなく、タイミング良く、イレースが学院長室にやって来た。

丁度良い、イレース。言ってやれ。

この脳内お花畑達に、一発ガツンと、

「ここにいましたか、リューイさん。試験問題は?」

イレースは俺に目もくれず、リューイにそう尋ねた。

は?試験問題?

「こちらに。ご要望通り、主要基礎魔法全教科分、学年別に作ってあります」

「さすが、仕事が早いですね」

リューイはまたしても、何もない空間から、分厚い書類の束を取り出した。

何だ、あれ?

「鬼教官殿のスタイルに合わせ、重箱の隅をつつくかのような出題にしてみました。どうでしょう?」

「ふむ…。…まずまずと言ったところですね。緩みきった生徒達に危機感を抱かせるには、丁度良い難易度でしょう」

えぇっと…。

…一体何の話?

「あの…イレース?それ、何だ…?」

「選択問題や記号問題などは一切作らず、全問題記述式の出題形式にしてみました」

「勿論、甘えを許すつもりはありませんから。それで結構です」

「それから、全科目に論述式の問題も作りました。こちらは、前年度の試験で正答率が低かった問題を参照して…」

「ふむ…。確かにこの範囲は、毎年生徒が躓く箇所です。改めて復習する意味でも、試験問題に組み込むのは悪くありませんね」

…二人共、めっちゃ真剣に話し合ってる。

俺、蚊帳の外なんだけど。

よく分からないが、話の内容から察するに…。

「イレース…えぇと、それ、試験か…?」

でも、今は定期試験の時期ではないはずなんだが…。

「えぇ。明日実施予定の、全校抜き打ち試験です」

鬼かよ。

朝、いつものように学校に行ったら、いきなり「今日は抜き打ちテストを行います」と言われた時の、生徒の絶望を想像してみろ。

可哀想になってくる。

「これまでずっと、この試みをやりたくてやりたくて。でも、全校生徒に一斉に実施する大掛かりな抜き打ちテストとなると、一人で準備するのは大変でしたから」

「鬼教官殿の相談を受けて、僭越ながら私が、試験問題の作成に協力させていただきました」

と、リューイが答えた。

こいつ…片棒を担いでやがる…。

「リューイさんの試験問題は完璧ですよ。お陰で、念願の全校抜き打ち試験を実施することが出来ます」

「恐れ入ります」

…俺は、そっと問題用紙を手に取って、見せてもらった。

ぱっと見で分かる。試験の難易度の高さ。

うわぁ…難しっ…。

完全に、生徒を殺しにかかってる。

こんな恐ろしい難易度の抜き打ち試験を受けさせられ、血の涙を流す生徒の姿が容易に想像出来る。

情け容赦がなさ過ぎる。

「あ、あわわわわ…。生徒達が可哀想…」

これには、シルナも真っ青。

「まさに鬼教官ですね。血も涙もないとはこのこと。きっとイレースさんの血は赤ではなく漆黒、」

「…丸焼きになりたいようですね?」

「…って、天音さんが言ってました」

「ええっ!?」

…はいはい。もうそのやり取りは良いから。